ブレーキ各部の劣化はシステム全体で同時に進行している。このため、一部分だけ新品にしたりするとバランスが崩れることで新たなトラブルを引き起こすことがある。
例えば、キャリパーのみをオーバーフォールしてキッチリ圧力がかかるようになったら、劣化していたマスターシリンダーが抜けてしまった、などといったことが往々にしてあるわけ。とにかく、構造的には単純なだけに1つ1つのパーツが確実に機能していないと、全てがまともに動かなる。手を入れるならトータルで。これが大原則だ。
また、オーバーフォールは手間がかかるものの作業自体は比較的簡単だ。しかし、ピストンの向きや組み込み順を間違えればブレーキはまったく効かなくなる。シリンダー内面のキズの有無や摩耗具合など、経験がないと判断できない部分も多々あり、使用されている液は非鉱物系なためオイル類を付着させることは御法度!素人が見よう見まねで分解・組み立てして、キッチリ作動するようになるほど甘くないことは確か。定期的に分解・整備することは非常に重要だが、やはりプロに任せたい。
●ブレーキキャリパーO/H
1.ブレーキキャリパーを取り外す
スライドピンボルトを外してキャリパーボディを上方に引き上げ、車体内側方向にスライドさせるようにしてキャリパーサポートから取り外す。
2.スライドピンを取り外す
スライドピンがスムーズに動くかチェックしつつまっすぐ引き抜き、ロックピンブーツを取り外す。この際、引っかかったり固着しているようなら、分解後に徹底的に原因を追求する必要がある。
3.ブーツリングを抜き出す
ピストンブーツを固定しているブーツリングを引き抜く。なお、このピストンブーツのシール能力が低下すると水が浸入することでピストンにサビが発生。フルード漏れを誘発してしまう。このため、ブーツ周辺がフルードで濡れていたら要注意だ。
4.ピストンを抜き出す
ブレーキホースの接続孔にウエスを当て、その上からエアダスターを押し付けつつ高圧エアを吹き込むことで、ピストンを押し出してやる。
5.ピストンシールを取り外す
ピストンを引き抜き、シールピックツール(ブレーキ専用工具)を使用して、シリンダー内壁の溝からピストンシールを取り出す。このピストンシール、角型断面のゴム製のリングで、油圧力の保持と自動調整機構は、このたった1本のゴムリングで行われている。それだけに劣化による影響は大きいのだ。また、シリンダー内壁にポリッシャーで磨いても落ちなかったり、削り落としたら凹むほどのサビを生じていた場合、キャリパーボディごとそっくり交換する必要がある。
6.キャリパーの構成パーツ
これがブレーキキャリパーを構成する部品の総て。モデル車はダブルピストン仕様なためパッと目、部品は多いが、構造的にはきわめて単純。それだけに分解・点検・組み立てには細心の注意を払う必要があるのだ。