健康だった人が突然、病魔に襲われることがあるように、クルマのトラブルは突然襲ってくる。気付かないうちに徐々に進行し、限界に達っしたところで明確な症状となって露呈するからだ。
 このため、外観のコンディションがどんなに良かったとしても安心は禁物! 各部を客観的にチェックし、定期的に交換すべきパーツは自主的に、キッチリ交換する必要がある。特にブレーキは要注意だ。止まれないクルマは走る凶器!!ブレーキトラブルは事故に直結するからだ。
 さて、劣化したブレーキフルードを使い続けるとマスターシリンダーやブレーキシリンダーの内壁にサビを誘発。その面を摺動するカップやシール類が酸化物の突起に擦れることで傷付き、圧力が低下すると共に液漏れを引き起こす、ということは以前リポートした。が、ブレーキフルードに何ら問題がなくても、年数が経過すれば圧力低下や漏れを生じるようになるのだ。油圧を発生させたり保持するシールはゴム製の単純なリングやカップ。当然、耐油性の材質が使われているが、いくら耐油性があると言っても常時ブレーキフルードに浸った状態で何年も経てば侵されてくる。しかも、絶えず前後に動くため摩耗もするからだ。
 で、もしも走行中に限界に達してしまったら。伝達される圧力が弱まるためブレーキの効きが悪化し、状況によっては突然圧力がかからなくなる。いわゆるブレーキが「抜けた」というトラブルで、ペダルが床にベッタリ密着してしまうわけ。このトラブル、かなりの恐怖を伴う。筆者も実際に経験しているが、1度でもそんなトラブルを経験すると認識を新たにする。が、しかし。そんな経験はしないに越したことはない。
 そこで、必要となるのが各部をバラバラに分解して摩耗や異常をチェックし、修正したり消耗パーツ類を交換する「ブレーキオーバーホール」だ。本来は定期的に行うべきもので、ひと昔前まではディーラーに車検を依頼すれば黙っていても実施されていた。ところが、最近は「漏れるまでそのまま」という風潮にあり、ユーザーがオーダーしなければそのままというのが現実。実施サイクルは、できることなら車検2回に1回。遅くとも3回に1回。近年のクルマであればパーツの耐久性が増しているため、これほどこまめに手入れせずとも走れてしまうが、もしも10年・10万kmまじかでさらに乗り続けるつもりで1度もやっていなかったなら、早急に実施したい。安全確保に予防整備は欠かせないからだ。
 また、ボディとブレーキキャリパーの間を接続しているブレーキホースの材質もゴム。年数が経過すれば確実に劣化し、ハードブレーキング時には膨張することでブレーキの応答性やフィーリングに影響してくる。当然、状況によっては液漏れを起こすため、やはり定期的に交換(オーバーフォールと同時が理想)する必要がある。そこで今回は、オーバーフォールとはどのような作業を行うのか、その概要を2回に分けてリポートする。
●マスターシリンダーO/H
1.マスターシリンダーを取り外す
マスターシリンダーの側面に接続されているブレーキチューブを切り離し、固定ナットを外してマスターバックからそっくり取り出す。
2.フルード漏れの痕跡がないかチェック
注射器のように排出部とピストン後端以外が密閉されているマスターシリンダーは、その構造上、ピストンロッド側に漏れを生じる。具体的には、マスターバックとの接続面にブレーキフルードが漏れ出してくるのだ。ブレーキフルードが塗装に付着すると写真のように荒れたり剥がれをを生じるので、マスターバックが濡れていたり塗装が剥がれた跡がないか、ときどきチェックしたい。
3.ピストンを抜き出す
シリンダー内周の溝にはめられているストッパーリングを取り外し、プライマリー/セカンダリーの両ピストンを抜き出す。ピストンの直径は親指ほど。こんな小さなパーツで、1トンを越える車重を止める力を発生させているのだ。
4.ピストンは2つ入っている
これがマスターシリンダーに組み込まれているピストン。2セット組み込まれており、油圧経路も2系統に分けられている(リザーバータンクも内部で仕切られている)。これは万が一の圧漏れというトラブルに対処した安全対策で、1系統がダメになっても、もう1系統が機能することで一定の制動力を確保できる構造になっているのだ。O/H時は、このピストンごとそっくり交換する。
5.劣化するとエッジが丸まる
右側が摩耗したピストンで、左側が新品。カップのエッジ部分(矢印位置)をよく見比べてみれば、丸まってしまっているのがわかるはず。カップ自体もふやけて弾力が低下してしまっている。このような状態では、正常な圧力がかかるわけがない。