成田から香港まで4時間40分、香港で乗り換え13時間10分かけて飛んだ先は、南アフリカ共和国のヨハネスブルグ。何をしに行ったかというと、南アの主要産業のひとつ、プラチナ鉱山の取材が目的。ヨハネスブルグからさらに車で3時間ほどかかり、到着したのはトランスバール地方にあるアングロ・プラチナム社のラステンブルグ鉱山です。

「今日は地下1100mまでもぐってもらいます」と、不敵に笑う鉱山のチーフ。鉱山とはいってもそこに山があるわけでなく、東京タワー(333m)の3倍以上の距離をエレベータで一気に下りるというわけです。ツナギに着替えて長靴をはき、ヘッドライト付きのヘルメットをかぶってエレベータに乗り込むと、気分はもう『メトロポリス』(フリッツ・ラング監督のほうの)。海に潜るときのように耳抜きをしながら2分もかからず最深部まで下り、鉄格子に囲まれたトロッコで、ごとんごとんと採掘現場まで移動します。

ラステンブルグ鉱山 画像1

このやぐらの下に、地下1100mまで
つながるエレベータが。
余談ですが、この取材のあと
ケープタウン市に移動して、
標高1087mのテーブルマウンテンに
登ってきました。

じつは南アフリカは屈指のプラチナ産出国で、全世界の産出量の75%がこの国から採れています。ここラステンブルグ鉱山は、月間およそ110万tのプラチナ原鉱石を採掘している大規模な施設です。

「あまり背が高くなくてよかったですね」。そういわれても何のことやらわからなかったのが、採掘現場に到着してみて事態を把握。プラチナ鉱床は約80cmの厚さの層を作って岩盤のなかに埋まっていました。つまり、坑道の地面から天井までは80cmの空間しかないということ。ほふく前進で突入すると、全身もう泥水まみれ。地熱のため気温は30度あり、マスカラも溶けて流れる滝の汗。

ラステンブルグ鉱山 画像2

エレベータに乗り込む直前、
何が待ちうけているかも知らず
ハイホーハイホーと鼻歌気分のご一行。
同行した鍋島徳恭カメラマンによる
スナップです。

「ほらここ、これがプラチナの原鉱石“メレンスキーリーフ”ですよ!」とチーフ。ついにプラチナとの遭遇かと、彼が指さす岩の壁にひたすら目をこらしてみても、なぜかプラチナは全然見えません。はっきりいって、ただの灰色の岩。ここにドリルで穴を開け、火薬を仕掛けて破砕し、鉱石をかき出すというんだけれど……。

1tの原鉱石の山から抽出されるプラチナは、たったの3g。わたしの持っているティファニーのちっちゃなプラチナペンダントを作るには、約1.5トンのメレンスキーリーフが必要となる計算。そりゃ目では見えませんよね。

ラステンブルグ鉱山 画像3

坑道の範囲は全長32km、
枝分かれしていて複雑なつくり。
つねに側溝に水が流れていて
この水の流れをたどれば
道に迷っても
出口にたどりつけるとか。

ここで掘り出された原鉱石は、近くの精錬所に運ばれ、8週間かけて純プラチナが抽出されます。じつは今回、精錬所も取材しましたが、すっ裸になって金属探知器とX線で念入りに身体検査を受ける(しかも入るときと出るときの2回)というセキュリティの厳しさにびっくり。見学者だけでなく、そこで働く人たちはみな、毎日のネイキッドチェックが必須だとのこと。

精錬所にあった純プラチナの延べ棒は、ちょっと分厚い板チョコくらいの大きさ。この1本で5kgの重さがあり、時価は1500万円。それが36本、総額5億4000万円がキラキラしながら目の前に並んでいたわけです。なるほど、そりゃ裸にもしますよね。

メレンスキーリーフ

必死で持ち帰ったメレンスキーリーフ。
このプラチナペンダントを作るには
約1.5tのメレンスキーリーフが必要。

(ジュエリーのグラム数×0.9)÷3
の計算式で、あなたのプラチナ
ジュエリーに必要とされる
原鉱石のトン数が割り出せます。
※Pt950の場合は0.95を掛けて。

というわけでゼブラが駆け、象がのし歩くサバンナのはるか地下には、金よりもはるかに稀少な貴金属、プラチナが静かに眠っていたのでした。あなたのジュエリーにも、ひょっとしたらラステンブルグ産のプラチナが含まれているかもしれません。なんたってこの鉱山は、南ア最大規模なんですから。

 

今回のプラチナ紀行、より詳しくは『セブンシーズ』8月号で読むことができます。
セブンシーズのWEBサイトはこちら≫

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