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WHOとユニセフの取り組み 母乳をとりまく国際事情

WHO(世界保健機構)とユニセフは、「赤ちゃんに優しい病院」認定など母乳の国際プロジェクトを盛んに展開中です。母乳の「国際社会」に触れてみませんか。

河合 蘭

執筆者:河合 蘭

妊娠・出産ガイド

「レストランでも授乳させて」でご紹介した「2003アジアの母乳育児支援ネットワーク連続講座」では、WHO(世界保健機構)、ユニセフを中心に世界的におこなわれているプロジェクトが次々と話題に上りました。


WHOやユニセフが熱心に母乳推進を始めたのは70年代の終わりで、もう長い年月が経っています。理由は、開発途上国での深刻な事態でした。衛生的なミルクを作るのが難しい国々では、人工栄養で育てることは危険です。それなのに、当時のアフリカなどでは粉ミルクがどんどん普及し、たくさんの赤ちゃんが下痢などで命を落としていました。

「母乳が出るかでないかは体質による」と一般的に信じられていますが、今日では、出産直後の過ごし方によって分泌が大きく変わることがわかっています。母乳は赤ちゃんが頻繁に飲むことで作られます。本格的な母乳不足ではないのにたくさんのミルクを飲ませると、体は母乳を作らなくなります。そのほか、出産直後から授乳を開始するか、しょっちゅう授乳しているか、母子同室をするか、きちんとした知識、技術を持った専門家がいるか等が母乳量の鍵を握ります。

WHOとユニセフは、こうした条件を「母乳育児を成功させるための10カ条」としてまとめました。そして、10カ条を満たしたと認められる産院に、「赤ちゃんに優しい病院BFH : Baby Friendly Hospital」の称号を与えることにしました。

この10カ条は、先進国にも呼びかけられました。先進国でも、母乳で育てられる人が増えた方がいいのは同じだからです。10カ条を守ると、数%の人は難しいのですが、ほとんどの人は母乳のみで育てられるようになります。

WHOは、粉ミルクの販売促進活動を規制する細かい国際基準も作りました。これは、強制力はもたないのですが、国によっては法律化されて罰則もあります。そのような国では、パッケージに可愛い赤ちゃんを描いたり広告したりすることはできません。

世界の国々が、こうしたWHO、ユニセフの方針をどれだけ実施しているかというと、大きな開きがあります。スウェーデン、フィリピン、中国などは過半数の産科が「赤ちゃんに優しい病院」に認定されていますが、日本は全国に25施設(2002年現在)で多いとはいえません。でも、日本は母乳育児の希望者が多いという背景もあり、今後はさらに広がっていくことでしょう。

母乳育児支援ネットワーク 「2003アジアの母乳育児支援ネットワーク連続講座」講演録

◆「母乳育児を成功させるための10カ条」については、別のガイド記事があります。母乳で育てたい人のための十カ条

◆日本では、「赤ちゃんに優しい病院」の認定は「日本母乳の会」が委託されて行っています。


illustration : Sakura Hirai
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