江ノ電全駅ガイド・藤沢市内編(3ページ目)

鵠沼：知る人ぞ知るお屋敷街には
大きな区画に松の並木が今も残る

江戸時代には湘南海岸一帯に幕府の相州炮術調練場（鉄炮場）が開かれ、近距離射撃の訓練場が置かれていたという鵠沼村。この広大な砂原の開発が始まったのは1887年の東海道本線開通前後から。続く1902年の江ノ電開通もあって、沿線は別荘地として急速に発展したといいます。






その発展に大きく関わったのが明治中期に宮内省に勤めていた大給松平家の府内藩主の末裔、大給（おぎゅう）近道子爵。かつての広大な相州炮術調練場（鉄炮場）を御用邸にと考えていたのです。ところが、御用邸は葉山に決定してしまったため、子爵はこの土地に道路を敷設、黒松を植栽、別荘地として売り出します。今も鵠沼には碁盤の目状に整理された、松のきれいな区画が残されていますが、それは当時からのものなのです。



この別荘地及び鵠沼海岸にあった旅館には、谷崎潤一郎、志賀直哉、武者小路実篤、岸田劉生、芥川龍之介などといった、明治から昭和にかけての文人、画家などが滞在、居し、作品の中にも折々鵠沼の風物が登場しています。その後、関東大大震災の後には都内から政治家、官僚、経営者などが多く転居、鵠沼は別荘地から高級住宅地へと変貌します。また、1929年の小田急江ノ島線の開通後には明治期からの別荘地の周辺、当時は農地だったエリアでの耕地整理も行われています。


特に小田急江ノ島線と境川に囲まれた一帯（住所では鵠沼藤が谷、松が岡、桜が岡、鵠沼橘など。ただし、いずれも全域ではない）は、県条例によって「鵠沼風致地区」に指定されており、建ぺい率や建物の高さ、色彩に至るまで厳しい規制が設けられています。しかし、その分、閑静な旧別荘地の風情が色濃く残されており、地元の人にとっては憧れのお屋敷街です。



実際、駅を降りて歩いてみると、平坦な土地の続く住宅の区画は大きく、中には100坪、200坪超（330平米、660平米超）というお屋敷も。一部には古そうな松の木もあり、各戸の植栽の緑も豊富。大きな道路が走っていないので非常に静かですが、大きな道路がない分、災害時などにはちょっと厄介かもしれません。また、大半が第一種低層住居専用地域なので、スーパーはもちろん、コンビニもなし。本当に住むだけのエリアなのです。ちなみにこの地域から都心に通勤するとなると、藤沢経由で東京駅まででおおよそ1時間。また、湘南新宿ラインなどを使えば、渋谷、新宿などへも直通です。


用途地域の関係から、この地域で住まいを買うとするとマンションは選択肢にはなく、基本は一戸建て。駅からの距離はもちろん、同じ鵠沼が付く地名でも松が岡が一番高めで、続いて藤が谷、桜が岡などとなっているように場所などによっても価格は大きく異なりますが、とりあえず、3.3平米あたり80～100万円は見ておいたほうが良いでしょう。元々が別荘地であったため、区画が大きな土地もありますが、最近は分割して分譲という例も増えています。


また、風致地区に隣し、藤沢駅に近い地域ではマンションも数は多くはありませんが、建てられています。この風致地区、町内全域が指定されているわけではなく、微妙に入り組んでおり、地名だけでは判断が付きにくいことがありますので、注意が必要です。





賃貸では海に近い片瀬海岸エリアで1Kなど単身者向き、鵠沼エリアで2DK、3DKといった広めの物件が供給されており、賃料は1Kが5～6万円、2DKで8万円前後から。テラスハウスや一戸建てなども供給されていますが、賃料は10数万円前後になります。




さらに住宅街が続き、お隣駅、柳小路に到着します。