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日暮里・舎人ライナー、当初予測以上に発展、変貌中

2008年3月30日に開業した新交通日暮里・舎人ライナーをご存じだろうか。足立区の公共交通空白地帯を埋める路線として誕生したもので、当初予測を上回るスピードで乗客数が増え、沿線も発展、変貌し始めている。

中川 寛子

執筆者:中川 寛子

住みやすい街選び(首都圏)ガイド

足立区西部を直線で約10キロ、交通空白地帯を埋める路線

尾久橋通り

日暮里駅を出るとすぐにカーブして尾久橋通りの上に出て、そのままほぼまっすぐ走る(クリックで拡大)

日暮里・舎人(とねり)ライナーはJR山手線・京浜東北線・常磐快速線と京成線が走る日暮里が始発・終着駅。そこから尾久橋通りの上をほぼまっすぐに約10キロ。終着駅は足立区舎人の見沼代親水公園で、終着駅から見えるほどの場所が埼玉県との境界である。そのため、見沼代親水公園駅前のロータリーには埼玉県草加市、川口市のコミュニティバスが乗り入れ、草加駅行の路線などが利用できるほど。

同路線が走る足立区西部は長らく公共交通の空白地帯となっており、尾久橋通りを走るバスが唯一の公共交通だった。ところが、この通りは都内でも有数の渋滞発生地で、新交通誕生までは10キロの距離に1時間以上かかることもしばしば。地元からは新しい公共交通をという要望が、古くは1970年代から出されていたのである。

予想を上回る乗客数増に新車両投入も

だが、誕生時、この路線の将来はどちらかといえば悲観されていた。途中に日暮里、西日暮里という山手線駅はあるものの、バス路線の代替である。しかも、見沼代親水公園でぶつりと終わり、どこにも繋がっていない。地元の足としては役に立つだろうが、それ以外の人を呼び込む力にはなり得ないのではないか。多くの人がそう考えたのである。

だが、予想は裏切られた。当初、都では1日の乗客者数を5万1000人と予想していたが、開業から6年後の2014年度には1日の平均利用者数は7万人を突破。特に平日朝の通勤時間帯に乗客が集中、2015年度の朝の通勤時間帯の混雑率(赤土小学校前→西日暮里)は183%。これは京浜東北線や東海道線などとほぼ同じ込み具合である。

新型車両

2017年5月10日から投入される新型車両(東京都交通局ホームページから)

そのため、東京都交通局では何度かに渡って輸送力増強、混雑緩和に取り組んできており、2017年5月10日は新型車両320形が投入されることになっている。これまでの実直というか、地味な外観に比べると、ぱっきりとした色目の、いかにもモダンな車両となっており、座席は窓を背にしたオールロングシートになる。吊り革増設、乗降をスムーズにする両開きドアの採用などで混雑緩和が図られる。

新築マンションも年々増加、探しやすい沿線のひとつ

両側に建物

この路線に乗る度に周囲に新しい建物が増えていることに気づく。特に荒川区内ではこのように両側にマンションなどが建設されている(クリックで拡大)

当然、沿線の開発も進んできている。元々それほど大きく開発されてこなかった地域でもあり、開発が進んでいる他エリアと比べ、新築マンションの供給が多いのが特徴。マンション購入情報サイト「住まいサーフィン」で同路線を見ると、2006年以降に供給された新築マンションは38物件。年別に眺めてみると開業前年の2007年に5物件、開業年に6物件と確実に増えており、最近でも2015年に6物件、2016年に5物件となっている。不動産ポータルサイトで検索してみると、2017年4月以降に入居が可能になる新築も10物件近くリストアップされている。

団地

江北六丁目団地など、尾久橋通りに面している団地も数多い(クリックで拡大)

もちろん、マンションよりもまとまった土地が不要で、建設しやすい新築一戸建ての供給も多く、家を買いたい人には探しやすい地域のひとつ。加えて、沿線には都営住宅、URなどの公的な住宅も多く、手頃に借りたい人にも探しやすい。

とはいえ、どんな場所か、全く行ったこともないという人も少なくないだろう。以下、沿線の特徴をご紹介していこう。

日暮里~熊野前(荒川区)は下町っぽい、商店街のあるエリア

日暮里駅

日暮里駅前。奥が再開発で生まれた3棟のタワー。その手前に日暮里・舎人ライナーの文字が見える(クリックで拡大)

始発・終着駅日暮里駅はJR山手線、京浜東北線、常磐快速線、京成線が乗り入れるターミナル駅。成田空港へのスカイライナーなどが利用できることもあり、早朝から人の多い駅のひとつ。山手線外側のローターリーには再開発で生まれた3棟のタワーが聳えており、近代的な景観が広がる。駅の東側には繊維関係の問屋などが集まる、日暮里繊維街があり、小売りもしていることから買い物客の姿も多い。

また、日暮里駅は谷中への最寄りでもあり、山手線内側に向かうとすぐに、テレビなどでもよく紹介されている夕焼けだんだんのある、谷中銀座商店街(文京区)。山手線を挟んで、異なる風景のある街というわけだ。

お隣、西日暮里駅はJRの山手線、京浜東北線の他、東京メトロ千代田線が利用できる、便利な場所だが、駅前はごくごくコンパクト。通り沿いにもビルが多い。あまり、生活のイメージがない駅周辺だが、お隣の日暮里駅と並んで小規模な、単身、カップル向けのマンションなどが多い地域。利便性が高く、かつ価格的には多少お手頃でもあるため、建設が相次いでいるのである。

おぐぎんざ商店街

おぐぎんざ商店街。高齢者、子どものための施設なども商店街内にあり、利用しやすそう(クリックで拡大)

3駅目にあたる赤土小学校から隣駅熊野前までは尾久橋通りの西側、一本裏手にはっぴーもーる熊野前、おぐぎんざ商店街などが続く、下町っぽいエリア。熱々が買えるおでん種屋さん、焼き鳥が評判の肉屋さん、カレーパンが人気のパン屋さん、子どもが集まる駄菓子屋など、安くて美味しい品が揃っている。

都電荒川線

熊野前では都電荒川線と交差。観光のイメージが強い都電荒川線だが、複数路線と交差しているため、使いようでは便利(クリックで拡大)

一方でしゃれたカフェ、こだわりの品を出すレストランやスーパーなどもあり、新旧取り混ぜて、毎日の生活に欠かせないものはほぼ地元で間に合う。日暮里・舎人ライナーは熊野前で都電荒川線と交差しているが、都電の走る通りにはスーパーその他の大型店も並んでいる。

尾久の原公園

隅田川沿いの工場跡地を利用した尾久の原公園。秋には各種のトンボが飛ぶ姿が見られるそうだ(クリックで拡大)

熊野前駅の東側、隅田川沿いには荒川区唯一の都立公園、尾久の原公園がある。ここは工場跡地を利用、下水道施設の整備と併せて、現在も造成が続行している公園で、最終的には約10ヘクタールという広さになる予定。芝生広場、子どもたちが遊べる人工のせせらぎ、枝垂桜が植えられた一画などがあり、開放的でのんびりできる空間だ。

並木のある風景

首都大学東京荒川キャンパス前。並木が美しい(クリックで拡大)

この公園に隣接しては首都大学東京荒川キャンパスがあり、緑の多いエリア。この地域からは北千住方面へのバスも利用できる。

日暮里・舎人ライナー沿線では熊野前駅以遠に公園が多く、尾久の原公園と同沿線を挟んで反対側にはレトロな雰囲気で一部にはファンも多い荒川遊園、さらにお隣駅足立小台と扇大橋間を流れる荒川沿いには荒川江北橋緑地などなど。終点近くにある、そのものずばりの駅名、舎人公園は駅周辺にある都立舎人公園によるもの。こちらは陸上競技場、テニスコートなども備えた、最終的には69.5ヘクタールに及ぶ広大なもの。一部はまだ造成中だ。

足立小台~西新井大師西(足立区)は一戸建て中心、空の広いエリア

川

駅を降りると目の前にすぐ荒川があり、川沿いにはサイクリングロードなども用意されている(クリックで拡大)

荒川は埼玉県から東京都に入った後に、隅田川と別れ、2本の川になるが、足立小台駅はその2つの河川に挟まれた細いエリア。高架の上を走る日暮里・舎人ライナーから見下ろすと本当にすぐ近くに2つの河川が流れていることが分かり、地形の妙を楽しめる。個人的にはこの路線で最大に興奮する場所である。また、この駅以遠は足立区である。

その足立小台駅周辺には大型家電店、家具店が並ぶ。同駅以遠の尾久橋通り近くには大型店が目に付くようになる。逆に商店街らしい商店街は少なく、買い物は大型店中心で考えたほうがエリアというわけだ。

江北駅周辺

江北駅近くの大型店。尾久橋通りと直交するように、商店街もあり、買い物には便利な場所(クリックで拡大)

以降で商業施設が多いのは江北駅、西新井大師西駅周辺。この沿線は日暮里、西日暮里駅周辺を除けば、総じて飲食店が少ないエリアなのだが、江北駅、西新井大師西駅周辺にはファミリーレストラン、回転すし店などが並んでいる。新規開業予定のスーパーなどもあり、利便性で考えると、この両駅周辺が便利だろう。

車利用

首都高速のみならず、環状七号線など幹線道路が走っているので車利用には便利(クリックで拡大)

続く扇大橋駅手前には首都高速中央環状線の扇大橋出入り口があり、車での移動が多い人ならこの駅も使いやすい。

西新井大師西駅は西新井大師最寄りではあるが、歩くと20分近く。環状七号線をまっすぐ行けば良いのだが、それは辛いという人はお隣の江北駅を通る、池袋駅東口と西新井駅前を繋ぐ都バスを利用するのが手だ。

畑と一戸建て

元々は畑だった場所を利用、一戸建て分譲をしたと思われる現場もいくつか(クリックで拡大)

さて、足立小台から西新井大師西までは通り沿いには多少高い建物、新しいマンションなどがあるものの、それ以外は基本一戸建て、2階建てくらいまでのアパートが多い、空の広いエリアで、ところどころには畑も。熊野前駅までと異なり、のんびりした風情がある地域というわけである。

谷在家(やざいけ)~見沼代親水公園はこれからのエリア

西新井大師西駅までは大型店もあり、団地などもある地域だが、それ以遠になると商業施設の数はだいぶ減り、まだまだ、これからという印象を受ける。もちろん、ドラッグストアやコンビニエンスストアなどはあるものの、飲食店も少なく、通りの人影も同様。

草加市内の大型商業施設

手前が毛長川。川の向こうに少し足立区部分があり、商業施設があるのは草加市内(クリックで拡大)

ただ、見沼代親水公園駅から400mほど離れた、草加市内にはスーパー、飲食店、衣類や靴などのファッション関係店舗、書店やペットショップその他が入った大型店があるので、それほど不便というわけではない。

見沼代親水公園

見沼代親水公園。ところどころにベンチもあり、犬を散歩させている人が多かった(クリックで拡大)

見沼代親水公園は農業用水を公園にしたもので、所々に桜などが植えられており、散策には楽しい場所。それ以外にも街中に緑が多い印象があり、静か。犬を連れた人も多く、ペットとゆったり暮らすには楽しい場所だろう。

相撲部屋、市場、銭湯なども点在

相撲部屋

歩いている最中に巨体の人を見かけ、びっくりしたら近くに相撲部屋があった(クリックで拡大)

それ以外に沿線で目についたものをランダムに挙げて行こう。ひとつは相撲部屋。埼玉県との境を流れている家長川(けなががわ)近くでは境川部屋を見かけたし、谷在家駅から10数分の場所には玉ノ井部屋があるそうだ。

卸売市場など

舎人公園駅近くには公園のほか、物流センター、卸売市場が並ぶ(クリックで拡大)

舎人公園の西側にある大型の建物は北足立市場。これは東京都の中央卸売市場のひとつで、区部北東部の青果と花卉流通の拠点。秋には市場まつりが開催されえ賑わう。市場内の食堂は一般利用も可。

土屋鞄

土屋鞄製造所。住宅街の中にひっそりと佇む人気店だ(クリックで拡大)

買い物では西新井大師西駅近くに、ランドセルで有名になった土屋鞄製造所の本店がある。工房が併設されており、ランドセル製造の過程も見学できるとか。子どものいる家庭なら関心のあるところだ。

子ども達

都心ではあまり見かけない、外で遊ぶ子どもの姿もよく見かけたもののひとつ。良い雰囲気だった(クリックで拡大)

銭湯も点在している。たとえば尾久エリアには7カ所あり、前述のおぐぎんざ商店街の近くには尾久ゆ~ランドなる湯が。いずれも駅からは少し距離はあるが、この辺りは非常に平坦な土地である。自転車利用で行けばそれほど遠くはないはずだ。

川を挟んで賃料、住宅価格に変化

荒川

川を越えると賃料、住宅価格が変わるのは日暮里・舎人ライナーだけではない(クリックで拡大)

最後に価格。沿線全体で見ると日暮里から熊野前までと、足立小台以遠では賃料、価格ともに違っており、たとえば、ワンルームマンションは熊野前までが6~7万円前後が中心、足立小台以遠になると5万円台となっており、川を越えと安くなる。同様に2DKでは10~11万円が7~8万円に、3DKで12万円~が10万円前後になる。

スーパー工事中

この春開業に向けて工事が進んでいたスーパー。ここに限らず、あちこちでこうした風景を見たことを考えると、5年後、10年後には大きく変わっていることだろう(クリックで拡大)

新築マンションでも同様に熊野前までが4000万円から6000万円、足立小台以遠は3000万円前後が中心などとなっており、買いやすさにはかなりの差が出る。ただ、足立小台以遠はスーパーやクリニックその他の新設が相次いでおり、今後、さらに便利になる可能性もある。

また、沿線には荒川区、足立区だけなく、荒川区に隣接して北区、終点近くでは足立区に隣接して埼玉県川口市、草加市など複数の自治体が入り混じっているエリアがあるので、どこで買うのかも気にしたいところである。

先頭車両

先頭車両に乗るとこんな風景が楽しめる。好天の日だととてもきれいな風景が楽しめる(クリックで拡大)

以上、ざっくりと沿線を紹介した。これまで利用したことがないという人も少なくないだろう路線だが、もし、乗るなら絶対に先頭車両である。同路線は自動運転で運転席がないため、一番前に座ると運転手になった気分が味わえ、鉄道好きなら楽しめるはずだ。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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