「子どもが病気になっても、親しいご近所さんが助けてくれる」―そんなイメージの新たな「病児保育」モデルを提案する、NPO法人「フローレンス」。そのビジョンとは?
中央区・江東区で活動開始!NPO法人「フローレンス」
代表の駒崎さんは25歳。論理的であり、かつ熱い思いを持っている方です。 |
「フローレンス」のシステムは、一般的な「病児保育施設」の仕組みとは異なっています。一番の違いは「非・施設型」という部分。病児保育スタッフとしての研修を受けた子育て経験者が「レスキュー隊」として、在宅で病気の子どもを看るというシステムになっているのです。
「フローレンス」代表の駒崎弘樹さんのある「きっかけ」
この「フローレンス」を運営する駒崎弘樹さんは、25歳の独身男性。ITベンチャー企業を経て、この事業を立ち上げました。まだ子育て経験のない駒崎さんがこの事業を始めるきっかけになったのは、母親から聞いたある出来事です。「私の母はファミリー・サポートの提供会員(子育て家庭を支援する側)をしていたのですが、あるとき継続的にお世話をしてきた会員の方から、“仕事を辞めることになりました”と言われたそうなんです。詳しく聞いてみると、“うちの双子の子どもたちが交互に熱を出して仕事を休むことが重なったため、辞めざるを得なくなった”と・・・。」
「僕はその話を聞いて、“子どもが病気でも、預かってあげればいいじゃないか”って母に言ったんですよ。でもファミリー・サポートの場合は、病気の子どもは預かることができない決まりになっているんですね。」
※ ファミリー・サポートでも、回復期など軽度の病気で預かってもらえる場合もあります・ガイド注
「そこでまた思い出したことがあったので、母に聞いてみたんです。“僕が子どもの頃、お母さんは仕事をしていたけど、僕が病気のときはどうしてたの?”と。すると、“あなたにはマツナガさんがいたじゃない”。マツナガさんというのは、昔近所に住んでいたおばちゃんだったんです。別に親戚ではなくて、いわゆる“ご近所さん”。昔、その方に預かっていただいてたことを思い出しました。」
「その話を聞いて、僕が寂しいなあと思ったのは“マツナガさんはもういないんだ”ということ。マツナガさんに象徴されるような「近所のおばちゃんが、子育て家庭を助ける」というつながりがなくなっていることにショックを受けて、それで“何かできないか”と考えるようになったんです。」
病児保育システムの難しさ
駒崎さんは調べを進めるうち、「“病児保育”というシステムは存在するけど、まだ多くの人が利用しやすい状況にはない」ということを知ります。「なぜ、こんなにニーズの高いものが増えていかないんだろう?そう思って調べてみると、やはり経営として成り立ちにくい、ということが背景にあるということが分かりました。病児を預かる施設を持ち、看護師や保育士を雇うと、それだけでかなりの費用がかかるんです。一方で、子どもが病気になったときにしか利用がない、ということでは、とても採算が合わない。」
「そういうわけで、多くの病児保育施設は行政の補助金によって運営されています。しかし補助金を受けると“行政サービス”として、かなり低額な利用料金にしなければならない、という縛りがあるんです。ところが、行政の補助金も人件費2~3人分程度の金額しか受けられないため、補助金を受けても赤字になってしまう、という構造になっているんです。」
「そこで僕は、“行政の補助金を受けずに、事業として経済的に自立できるようなシステム”を作っていきたいと考えました。何しろ、利用したいという人はたくさんいるんですから、そのシステムさえできれば、広がっていくはずだと思ったのです。」
「非・施設型」「保険型」という画期的なシステム
駒崎さんが編み出した解決策は、「施設を抱えない」ということと、「月会費制にして、保険的なシステムにする」という2点でした。施設の維持費は大きな負担になるので、在宅で病児の世話をすることにする。そして利用会員からは、利用の有無に関わらず毎月一定額の「月会費」を集め、それを運営費に充てるという仕組みを考えたのです。具体的な「フローレンス」の仕組みは以下のとおりです。
利用会員になる際の登録料が1万円、そして月会費として、4000円~1万円(子どもの既往症などにより、幅があります)を毎月支払います。
病児の世話をするのは、「レスキュー隊」と名づけられた、子育て経験のある方々です。事前に病児保育についてのしっかりした研修を受け、要請のあったときだけ活動します。
「朝、仕事に行こうとしたら、熱が・・・」「保育園から仕事先に、発熱のためお迎えコールが!」などのどちらの場合も、「フローレンス」本部に連絡すればレスキュー隊がかけつけてくれます。そして、自宅や園で子どもを受け取り、そのままタクシーで移動し、かかりつけの小児科の診察を受けます。そこで問題がなければ、レスキュー隊員の自宅で、保護者が帰宅するまでの間を過ごします。
もし、レスキュー隊員の自宅で預かっているときに、子どもの具合で気になることがあれば、提携している小児科に電話相談をすることができる体制も整えてています。
利用する場合、月に1回までは月会費のみで利用できます、2回目以降はどうしても実費がかかってしまうので1時間1000円となりますが、それでもベビーシッターなどに比べれば、かなり利用しやすい価格です。
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病児保育のフローレンス
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