世界遺産/世界遺産とは

自然遺産とは

世界遺産には文化遺産・自然遺産・複合遺産という3つの種類がある。本記事では自然遺産の定義から世界遺産に占める割合、自然遺産の4つの登録基準、すべての登録基準を満たす「キング・オブ・自然遺産」21件まで、世界自然遺産について解説する。

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

世界遺産の約22%が自然遺産の価値を持つ!

アルゼンチン・パタゴニアの世界遺産「ロス・グラシアレス国立公園」ペリト・モレノ氷河

高い圧力のため「グレイシャー・ブルー」と呼ばれる青に輝くペリト・モレノ氷河。アルゼンチン・パタゴニアの世界遺産「ロス・グラシアレス国立公園」構成資産

世界遺産には文化遺産・自然遺産・複合遺産の3種類がある。2019年7月現在、世界遺産全1121件のうち213件、19.00%を占めるのが自然遺産だ。39件存在する複合遺産も自然遺産の登録基準を満たしているので、22.48%の世界遺産が自然遺産の価値を持つことになる。

では、自然遺産とはいったいどんなものなのだろう?
 

自然遺産とは何か?

中国の世界遺産「黄龍の景観と歴史地域」の石灰棚

登録基準(vii)を満たし、傑出した自然美が評価された中国の世界遺産「黄龍の景観と歴史地域」の石灰棚 (C) chensiyuan

世界遺産に登録されるためには、10項目ある登録基準を1項目以上満たさなければならない。このうち、登録基準(vii)~(x)のみを1項目以上を満たした物件を「自然遺産」という。

■自然遺産の登録基準((i)~(vi)は文化遺産登録基準)
  • (vii) 類まれな自然の美や美的要素を有した自然現象、または地域を含むもの
  • (viii) 生命の記録、進行中の地形発達の重要な地質学的過程、または重要な地形学的・自然地理学的特徴を含む、地球の歴史の主要な段階を示す顕著な例であるもの
  • (ix) 陸上・淡水・沿岸・海洋生態系・動植物群集の進化や発展において、進行中の重要な生態学的・生物学的過程を示す顕著な例であるもの
  • (x) 生物の多様性保全の観点から、重要な自然の生息・生育地があるもの。学術上・保全上の観点から、顕著な普遍的価値を有し、絶滅の恐れがある種を含むもの
要約すると、(vii)自然の美、(viii)重要な地形、(ix)重要な生態系、(x)固有種や絶滅危惧種の生息域、となる。

これに加えて、自然遺産になるためには「完全性」を満たさなければならない。完全性とは、顕著な普遍的価値を構成するすべての要素が含まれており、それを維持するために十分な広さが確保され、法的保護下に置かれていることを示す。法的問題について、日本の場合、自然遺産については自然公園法が主にその役割を担っている(文化遺産は文化財保護法)。

自然遺産の内容について、世界遺産条約第2条は以下のように定義している。

■世界遺産条約第2条
この条約の適用上、自然遺産とは次のものをいう。
  • 無生物、生物の生成物、あるいは生成物群からなる特徴ある自然地域で、観賞上または学術上、顕著な普遍的価値を有するもの
  • 地質学的、地形学的形成物及び脅威にさらされている動植物の種の生息地や自生地として区域が明確に定められている地域で、学術上または保存上、顕著な普遍的価値を有するもの
  • 自然の風景及び区域が明確に定められている自然地域で、学術上・保存上あるいは景観上、顕著な普遍的価値を有するもの
自然遺産については、各国から推薦された物件が世界遺産にふさわしいものかどうかIUCN(国際自然保護連合)が現地調査を含む専門調査を行い、評価報告書を作成して、登録・情報照会(3年以内に追加情報を提出すれば再審議が可能)・登録延期(推薦書の提出からやり直し)・不登録の4段階の勧告を行う。

この報告書をもとに、毎年1度開催される世界遺産委員会が4段階のいずれかの決議を行い、登録決議を受けたものが世界遺産リストに掲載される。不登録の決議を受けた場合は再推薦が認められない。
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