新しい文化遺産
ドイツの世界遺産「エッセンのツォルフェライン炭坑業遺産群」、第12採掘坑の立坑櫓。産業遺産ながらバウハウスの影響を受けた美しいデザインで知られる
こうした不均衡を是正しようと、1994年に「世界遺産一覧表における不均衡の是正及び代表性・信頼性の確保のためのグローバルストラテジー」という基本戦略が採択された。ここで以下5分野の文化遺産が多すぎると指摘された一方、新たに保護すべき分野として研究が進んでいる3分野を例示した。
<多すぎると指摘された分野>
- ヨーロッパの物件
- 都市と信仰に関する物件
- キリスト教に関する物件
- 先史時代と20世紀以外の物件
- 優品としての建築物件
- 文化的景観
- 産業遺産
- 20世紀建築
日本の世界遺産登録もこの流れを受けており、21世紀に入って登録された世界遺産はこの分野のものが多い。たとえば「紀伊山地の霊場と参詣道」と「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」は文化的景観、「富岡製糸場と絹産業遺産群」と「明治日本の産業革命遺産」は産業遺産、「石見銀山遺跡とその文化的景観」は両方、「ル・コルビュジエの建築作品」の国立西洋美術館は20世紀建築だ。
以下では文化的景観、産業遺産、20世紀建築の概要を紹介しよう。
文化的景観とは何か?
世界遺産「フィリピン・コルディリェーラの棚田群」、バタッドの棚田。自然と調和したその文化的景観は「天国への階段」の異名を持つ
■文化的景観
- 文化的景観は、文化的資産であって、条約第1条のいう「自然と人間との共同作品」に相当するものである。人間社会又は人間の居住地が、自然環境による物理的制約のなかで、社会的、経済的、文化的な内外の力に継続的に影響されながら、どのような進化をたどってきたのかを例証するものである
上のように文化的景観は、人間社会が自然環境の影響下で発展したことを示し、両者が調和した景観をいう。複合遺産との違いだが、複合遺産は文化遺産・自然遺産の登録基準をいずれも1項目以上満たす必要がある代わりに、両者が調和せず断絶されていても構わない。一方、文化的景観の場合は自然遺産の登録基準を満たす必要はないが、両者の交流が表現されていなくてはならない。
グローバル・ストラテジーでは、文化的景観の中でも3つの種別が記載されている。
■文化的景観の3種別
- 意匠された景観:人間にデザインされた自然の景観。庭園や公園など
- 有機的に進化する景観:人間の社会・経済・宗教等の活動が自然環境に影響を与えている景観。遺跡のように過去の建造物が自然景観に溶け込んだ遺存景観と、棚田のように現在も使用されていて今後も自然に影響を与える継続景観がある
- 関連する文化的景観:人間の宗教的・美的・文化的活動に影響を与える自然の景観