同じ老齢厚生年金でも、全く別物
公的年金は老齢、遺族、障害と3つの種類があり、その中で中心となるのはなんといっても老齢年金です。会社員が加入する厚生年金からは、「老齢厚生年金」が支給されますが、この老齢厚生年金には2つの種類があることをご存じでない方も少なくありません。その2つの老齢厚生年金とは、
- 60歳代前半の老齢厚生年金
- 65歳以降の老齢厚生年金
この2つの年金は同じ老齢厚生年金で、見かけはかわりないのですが、法律の条文でも、60歳代前半は「法附則8条」、65歳以降は「法42条」と全く別物となっています。別物ですから、裁定請求も形式的とはいえ、別々に2度行うことになります。
図を見ると、「厚生年金って60歳から受け取るんだ!」と喜んでしまいますが、残念ながら「過去はそうだった」ということになります。
この60歳代前半の「特別支給の老齢厚生年金」ですが、いずれなくなる運命の制度です。法律の条文にも「当分の間、65歳未満の者が……」と書かれているとおり、期間限定、タイムサービスの年金制度となります。
生年月日によって、
■60歳から受け取れる人
■一部分が受け取れる人
■全く受け取れない人
に分かれます。
詳しくは以下で解説しています。
タイムサービスの「特別支給の老齢厚生年金」とは?
残念ながら、昭和36年(女性は昭和41年)4月2日以降に生まれた方は、60歳代前半の老齢厚生年金は1円も受け取ることができません。
「60歳代前半の老齢厚生年金」は、繰り下げ受給しても、増額されない
別物ですから、要件や取り扱いに差異があり、これを理解しないと思わぬ不利益をこうむる可能性もあるので注意が必要です。さて、取り扱いの差があるのが「繰り下げ」受給の可否です。65歳以降の老齢厚生年金や老齢基礎年金は繰り下げ受給が可能で、繰り下げた月数に応じて受け取る年金が増額されることになります。
しかし、60歳代前半の老齢厚生年金には繰り下げという制度はありません。それにもかかわらず、「請求をちょっと遅らせて、年金を増やそう」と考えておられる方も少なくありません。
仮に、60歳から受け取らず、65歳まで待って請求したとしても、残念ながら増額をされることはありません。
増額されないだけでなく、「減額」や全く受け取れない場合も
仮に60歳から受け取れる年齢の方が、65歳でもまだ請求せず、65歳以降に請求したとすると、増額されるどころか、逆に「減額」されてしまうのです。年金の請求は時効の関係で5年間しかさかのぼれないことになっているからです。仮に68歳になって請求したとすると、受け取れる年金は5年さかのぼった63歳からとなり、60歳から63歳までの年金を受け取れなくなってしまいます。
ですから、「増額したい」と70歳以降まで待って請求したら、5年さかのぼっても65歳以降となってしまい、60歳代前半の年金は「1円」も受け取れないということになるわけです。
「増額するつもりで繰り下げたつもりが、全く受け取れなくなる」としたら、「悲劇」ですね。
別物であることが、「お得」を生み出すことも
老齢厚生年金と雇用保険の基本手当を両方受け取ることができないことは、以前の記事でも書いたことがありますし、皆さんもよくご存じだと思います。ただし、この年金と雇用保険の調整は「60歳代前半」の老齢厚生年金だけが対象(65歳以降の老齢厚生年金を繰り上げた場合も対象となる)となります。
65歳以降に基本手当を受け取るような場合は、年金は65歳以降の老齢厚生年金となり、両方受け取ることができることになります。基本手当は65歳までに離職することが要件となりますので、かなりのレアケースであることは間違いありませんが、こちらは別物であることが生み出した「お得な矛盾」といえますね。
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