マーケティング/マーケティング事例

102店舗もの閉鎖!ワタミを不振に追い込んだ影とは(2ページ目)

ワタミの業績が深刻な状況に陥っている。同社は2014年度中に102店舗を閉店すると発表。業界に衝撃が走った。今年4月の消費税増税の際、値上げだけでなく、料理の質を上げるなどワタミなりの努力をしたが、効果が出なかったようだ。ここまでの不振に追い込んだものとはいったい何か、ガイドの視点から説明していきます。

新井 庸志

執筆者:新井 庸志

マーケティングガイド

経営にとって効率化はいいことか

マクドナルドの場合、直営店からフランチャイズ制を強化したことによって、利益率こそ向上したが、現場の士気が大幅に下がった。したがって、フランチャイズ制を進めた原田体制後期からマクドナルドは業績悪化の道をたどってしまう。もちろん戦略のまずさもあるが、現場の士気は重要だ。業績悪化の後、いくらメニューを強化しても、現場の士気が上がらなければ、業績向上は望めない。

すき家の場合、利益向上のために、人件費を大幅に削った。夜に一人で店舗を切り盛りする通称ワンオペ。ワンオペは社会問題となり、多くの店舗閉鎖を招いて、すき家の経営は逆に悪化してしまった。


「企業は人なり」の実践

ワタミも、マクドナルドも、すき家も、業績の悪化している企業の多くは、経営者や本部の意向に、店舗の現状、現場の声が反映されていないことが多い。現場を無視して、数字や理想優先ばかりの本部意向ばかりが伝えられる。そんなことでは現場の士気は上がらない。

「企業は人なり」とよく言われる。マーケティング的には、ここ数年で「人」の要素がとても重要になっている。価格の安さや味の良さは、飲食店選びの最低限の基準となった。今は、そこで働く人に魅力があったり、サービスが素晴らしかったりすることが飲食店選びのポイントになっている。

「企業は人なり」を具体的な行動に移している企業は成長している。居酒屋「塚田農場」などを運営するエー・ピーカンパニーを見てもらいたい。「塚田農場」の魅力の一つは、宮崎地鶏へのこだわり、つまり味だ。ただ、それ以上に社員やアルバイトがいきいきと働くことができる仕組みを整えている。例えば、同社では、お客一人あたり400円のサービスを、スタッフの裁量で実施して良いということになっている。お客とのコミュニケーションを通して、どういうサービスをすれば喜んでもらえるかを現場で考えているのだ。また、塚田農場に行くと「オリジナル名刺」が発行され、お客は来店回数によって昇進していくというユニークな施策がある。スタッフとお客の関係が良好になり、それによって売上が上がる仕組みがうまくできているのだ。

エー・ピーカンパニーの売上高を見てみると、居酒屋不況と呼ばれているのが嘘のようだ。「2012年3月期 83.2億円、2013年3月期 113.8億円、2014年3月期 154.2億円」となっている。経常利益も伸びており、「2012年3月期 4.6億円、2013年3月期 7.8億円、2014年3月期 12.4億円」である。この成長を支えているものは、現場スタッフの力だといえる。なお、エー・ピーカンパニーはツカラボという就活支援セミナーも開催している。これも同社のアルバイトや社員の評判が良いからこそできることなのだ。


ワタミが復活するための方法とは

今、ワタミがやるべきことは、渡邉美樹氏が掲げた理想に基づき、スタッフに厳しい行動規範を守らせることでも、高い目標を達成させることでもない。やるべきことは「どうやったら、おもてなしNo.1の居酒屋」になれるかを現場の一人一人が考え、実行する環境を作ることだ。店員がイキイキと働くことは重要だ。おもてなし、オペレーションはもちろん、セントラルキッチンではあっても少しのことで料理の味すら変わるだろう。その結果、お客も集まってくる。そして、ブラック企業と呼ばれている悪いイメージは徐々に払拭されていく。

ワタミ復活のカギは、創業から続く渡邉美樹イズムからの脱却に尽きる。創業メンバーである桑原豊社長には、いろいろな意味で難しいかもしれない。ただ、その脱却なしに、業績の向上、ブランドイメージの改善はなし得ないのだ。
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