マーケティング/マーケティング事例

102店舗もの閉鎖!ワタミを不振に追い込んだ影とは

ワタミの業績が深刻な状況に陥っている。同社は2014年度中に102店舗を閉店すると発表。業界に衝撃が走った。今年4月の消費税増税の際、値上げだけでなく、料理の質を上げるなどワタミなりの努力をしたが、効果が出なかったようだ。ここまでの不振に追い込んだものとはいったい何か、ガイドの視点から説明していきます。

新井 庸志

執筆者:新井 庸志

マーケティングガイド

衝撃!102店舗もの大量店舗閉鎖を決定

ワタミの業績不振が深刻な状況だ。2014年度中に102店舗を閉店する。2014年9月中間決算は売上高が前年同期比3.7%減の777億円。営業損益が10億円の赤字(前年同期は24億円の黒字)となった。中間期の営業赤字は1996年の上場以来初めてのことだ。今年4月の消費税増税の際に、値上げだけでなく、料理の質を上げるなどワタミなりの努力をしたが、効果が出なかったようだ。ガイドの視点から、ワタミ業績不振の原因を見れば、料理の質を上げても効果が出なかったのは、なんら驚くことではない。その原因について順を追って説明していきたい。まずは創業者、渡邉美樹氏の生い立ちからだ。


渡邉美樹氏の成功物語

渡邉美樹氏によって創業されたワタミ。その立身出世伝は『青年社長』という小説にまでなるほどだった。裕福だった幼少時代から、父親の事業失敗によって貧困生活に陥った渡邉美樹少年。大学時代卒業後、佐川急便で1年間働いて資金を貯め、ワタミを創業する。最初はつぼ八のフランチャイズからスタートし、大物経営者との出会い、大手メーカーとの交渉を経て事業を大きくしていくストーリーだ。苦境にあっても、強い意志の力と行動力によって人生を切り拓いていく姿に、多くの人が感動した。

「和民」の登場はとても新鮮なものだった。それまでの居酒屋とは、おじさん達が、ビールを飲み、タバコを吸い、酔っぱらって、大声で話すような場所だった。居酒屋には行かなかったファミリー層も、「居食屋」を掲げたワタミには行った。その後、野菜を中心にしたメニューを増やすなど、居酒屋業界に新風を送り続けた。料理の質は高く、店には清潔感があり、店員はキビキビしていた。

当然ながら、おじさん達も、若い人達も、こぞって「和民」に行くようになった。ワタミは幅広いターゲットやユーザーニーズに合わせるため、より落ち着いた雰囲気の「坐・和民」や「わたみん家」などを展開するようになった。


カリスマ経営者の功罪

ガイドは、渡邉美樹氏と屋久島や東京で言葉を交わさせて頂いたことがある。これまで数多くの経営者、著名人とお会いしているが、その中でも渡邉美樹氏の印象は強烈だ。目と言葉からは自信に満ちあふれたオーラが感じられるのだ。当時、こちらから御礼状を出せば、すぐに自筆で返信してくれた。これほどしっかりした人間はそうそういないと感じた。ちなみに、私だけでなく渡邉美樹氏と会い、話をした友人・知人のほとんどは、同じような感想を持っている。それほどまでに渡邉美樹氏とは周りを圧倒する人物だったのだ。

しかし、それが現在のワタミの経営不振に繋がっていると私は感じている。

「経営者が凄すぎると、まわりは付いて来られない」

そういうケースはよくあることだ。渡邉美樹氏の場合、少年期に苦しみ、休まずに努力し、自分の力で人生を切り拓き、成功してきた。そのことによって人生を好転させて来たのだから、他人にもそれを良いものとして伝え、経営の中で行動力を求めてしまった。

創業から数年間、社員数が数人から数十人レベルであれば、渡邉美樹氏と直接話す機会が多く、彼の真意を汲み、ついて行こうと思う人だけが集まる形で成り立った。しかし、組織が多くなれば、そうはいかない。初期メンバーのように「会社を大きくしたい」とかワタミの存在意義を考えるよりも、自分の生活や給料やキャリアを考える人が多くなる。それは悪いことではなく、企業が成長する中で当たり前のことだ。そういうことを当然のこととして、それでも企業が成長する組織と仕組みを作ることが企業経営のキモなのだ。

どこかでワタミは、渡邉氏の持論に共感し、同様に実行することを求めすぎたのかもしれない。しかし実際には、多くの社員やスタッフは付いて来なかった。人はモノではない。いかに素晴らしい理想を掲げても、人がついて来なければ、企業にはマイナスでしかない。
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