マーケティング/マーケティング事例

広い海原で宝を探し当てる宝島社流マーケティング(2ページ目)

ファッション誌業界で一際輝きを放つ宝島社。わずか200人ほどの出版社がなぜ次々にNo.1誌を生み出せるのか?宝島社流マーケティング戦略の極意に迫ります!

安部 徹也

執筆者:安部 徹也

マーケティング戦略を学ぶガイド


 

多くの潜在読者の“欲しい”を喚起する商品作り
 

ブランドアイテム

雑誌に付属するブランドアイテムも人気の秘密

大々的なプロモーションを展開して多くの潜在読者にその存在を認知されても、“欲しい”と思わせるものでなければ、商品が売れることはない。

それでは、宝島社ではどのようにしてこれまで雑誌を購入しなかった層にアピールする製品づくりを実現しているのだろうか?

その疑問を解くカギは、月に1回それぞれの雑誌ごとに開催する『マーケティング会議』にある。宝島社が大躍進を遂げた原動力として“雑誌にブランドアイテムの付録をつける”という戦略はよく知られているが、実はそれだけではない。そして、重要な鍵をにぎるのがこの会議なのだ。

2007年から実施されているマーケティング会議では、編集担当者を始めとして書店営業、広告営業、宣伝、広報、WEB担当者、そして社長が一堂に会して、価格やパッケージ、ブランドアイテム、宣伝プロモーションなど、製作から販売に至るまでのプロセスを様々な視点から検討している。このマーケティング会議によって、商品としての完成度を高めていくことで、これまで雑誌を読んでこなかった人々にも訴求できる雑誌づくりが実現されるのだ。

また、マーケティング会議では、ただ単に雑誌を作るという視点ではなく、情報や知識、技術、そして企業などをつないで、独自の視点で再構成することで、新たな価値を作り出す“ビジネス編集力”が問われることになる。この“ビジネス編集力”を駆使することによって、自社独自のビジネスにこだわることなく、様々なメーカーと共同で商品開発を行ったり、広告クライアントと読者を直接つなぐイベントなどの機会を創出したり、自社製品の魅力を究極まで高めることが可能になるのだ。

そして、これまで雑誌を読んでこなかった人々を取り込むためには、“身近”というキーワードも重要な鍵を握る。1989年に『CUTiE』が創刊されるまで、ファッション誌といえば海外ブランドコレクションなどがメイン企画として誌面を飾ることも多かった。

ところが、このようなファッションは普段のファッションとはかけ離れたものも多く、自分の中に取り入れられるものも限られてくる。そこで、宝島社では憧れのものとしてのみファッションを紹介するのではなく、“半歩先”でどんな人でも取り入れやすいものを提供することによって“お役立ち感”の向上を目指している。

たとえば、2009年から年1回主催しているファッションリーダーアワードでは、今年から“流行3大予測”を開始。2012年には、『ママ&ベビーが主役』『プチ贅沢品ブーム』『日本女性は一生「女子」化』という3つのトレンドを予測した。これは、ファッション誌シェアNo.1(※)のリーディングカンパニーだからこそ成せる業であろう。(※日本ABC協会調べ)

このような宝島社の半歩先のトレンドを提案する“プロダクトアウト”の誌面作りによって、多くの潜在読者が「自分にも取り入れることができるかもしれない」という思いを抱き、“欲しい”という欲求を高めていくのだ。


 

“価値”に応じて変化させる価格 

宝島社の価格に対する取り組みもユニークだ。一般的には雑誌には定価があり、毎月変わらないというのが基本といえるだろう。ところが、宝島社は雑誌の厚みや企画内容、ブランドアイテムなど様々な要素に応じて価格を変更する「変動価格制」という戦略をとっている。この価格戦略においては、顧客が感じる価値を重視し、想定される読者が常に“お得”と感じる価格に設定しているのだ。

価格戦略では、「価格の割に高い」とか「価格の割に安い」といったそれぞれの顧客が感じる“相対的な価値”と企業が設定する“絶対的な価格”という二つの要素が顧客満足を決定付けることになるが、宝島社は絶対的な価格を雑誌のコンテンツ等に応じて変えることによって、常に顧客が感じる相対的な価値が価格を上回る状況を意図的に作り出しているともいえる。

通常、雑誌のような商品で価格を頻繁に変更すると読者は混乱するのではと考えがちだが、宝島社の場合は、顧客を囲い込んで毎月同じ読者に同じ商品を提供するという考えではなく、むしろ毎月新たな読者に価値のある“新製品”を届けるという姿勢のため、商品やその時の社会環境に合わせて読者目線で価格を設定しているのである。


 

売る現場に“ワクワク感”を吹き込む 

宝島社は流通面からも様々な試みに挑戦してきた。たとえば、いかに魅力的なブランドアイテムをつけたとしても、それが顧客の目に留まらなければ購入にはつながることはない。実際に、コンビニなどで陳列される雑誌は、最前列に並べられるもの以外は、表紙の上部のタイトルしか見えない。そこで、「上から12センチの法則」と称して、ブランドアイテムやメインの企画など、購入を決定するにあたって決め手となる情報を、目立つように上部のタイトルのスペースに盛り込んだ。これは顧客目線に立った些細な改善ではあるが、購買意欲を高める効果が非常に大きく、来店客が手に取る確率を飛躍的に高めることに成功した。

また、雑誌が売れるためには書店やそこで働く書店員の協力は必要不可欠だ。いかに書店員が自社の出版物のファンとなって販売に力をいれてくれるかどうかで発売部数に大きな開きができてくる。そこで宝島社では、書店員にもっと雑誌に愛着をもってもらおうと、雑誌が出来上がる過程を実際に目で確かめてもらうために、リムジンで印刷工場見学ツアーを実施したり、書店内で雑誌のブランドアイテムや姿見鏡、ハンガーラックを設置し、実際に手に取って確かめることのできる「宝島社書店」を設けて来店客のワクワク感を高める施策を展開したり、重要なビジネスパートナーである書店を元気にする活動にも余念がない。この“書店応援キャンペーン”が読者と雑誌の主要な出会いの場である書店を活性化させ、売上を伸ばすことにつながっているのだ。

マーケティングで成果を上げるためには、マーケティングミックスを構成するそれぞれの要素に一貫性を保った上で、絶妙なバランスが重要になってくる。どれ一つ欠けても期待通りの成果は上げられないが、宝島社では完璧といえるまでにこのマーケティングマネジメントのサイクルを回し続けてきたことが大躍進を続ける理由であろう。

果たして、広大な海原を駆け巡り、宝を探し当てる“宝島社流マーケティング”を駆使してこのまま快進撃を続けることができるのか?

今後も宝島社のマーケティングから目が離せない。
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