「103万円の壁」はなぜ103万円? 給与所得控除が2020年から変更しました。その影響は?
収入は減る、税金や社会保険料の負担は増える、教育費は増える……。少しでも家計の足しにと、働き始めるママが増えています。また、大学生への仕送りも年々減っており、アルバイトで生活費の大部分を稼がないとやっていけない学生も多くなりました。『アルバイトの税金と社会保険』でも解説しましたが、103万円はパートやアルバイトで働く時に考えるべき年収のラインです。「103万円の壁」と呼ばれるこの「103万円」、とっても半端な数字だと思いませんか? 今回は、どうして「103万円」なのか?を解説します。
2020年から所得税の控除の額が変わり、「103万円」ではなくなるのか?という声も聞きますが、結果は「103万円」は変わらず。この「103万円」のわけと2020年からも「103万円」である理由を紹介します。
103万円の決め手は所得税の所得控除
どうして、年収103万円を気にしないといけないかご存知ですか? それは、パートやアルバイト、派遣社員、正社員などの給与所得者が年収103万円以下だと、- 自分自身が所得税を払わなくてもいい
- (16歳以上の学生の場合)親の所得税の計算時、扶養控除を受けられ、親の所得税が減額
- (2017年まで 主婦の場合)夫の所得税の計算時、配偶者控除を受けられ、夫の所得税が減額される → 2018年からは、主婦の場合は年収103万円ではなく年収150万円がボーダーになっていますので注意
所得税はどのように決まる?「収入金額-給与所得控除額」に対し税金
では、所得税はどのようにして決まるのでしょうか? 収入がお給料だけ(家賃収入や株の売却益など他の所得がない)の場合で考えてみます。所得税とは、1年間の「所得」に対して課せられる税金です。給与所得者にとっての所得は、「給与所得の金額=収入金額-給与所得控除額」となります。
収入金額とは、1年間(1月から12月まで)に支払われた給与・賞与の合計額で、源泉徴収される前の金額。ここから、給与所得控除を引いたものが給与所得になるわけです。
この給与所得控除というのは、自営業者などでの必要経費のようなもの。自分で商売をしていたら、仕事に必要なものは経費として処理されますが、給料をもらう身ではそうはいきません。とはいっても、仕事のために、色々とお金がかかっているはず。ということで、給与所得者に対して、給与所得控除をもうけているのです。
※詳しくは「収入と所得は何が違うの?」でも解説。
2020年より、給与所得控除は最低でも55万円となりました
給与所得控除は、支払われた給与・賞与の金額から決まります。上の表は、収入別の給与所得控除額です。最低でも、55万円(2020年以降。2019年までは65万円でした)の控除が受けられるということですね。なので、給与収入が55万円以下であれば、給与所得が0になるわけです。年収が55万円以下なら、税金などを払わなくてもいいというわけですね。でもまだ、103万円にはなっていません。
55万円が103万円になる仕組みとはどういったものでしょうか?
所得控除は所得税の「割引券」
給与所得などの所得税を計算する方法は、「(所得金額-所得控除)×税率」となります。ということは、この所得控除が多ければ多いほど、税金が安くなるということです。この所得控除は全15種類あります。具体的には、雑損控除、医療費控除、社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除、地震保険料控除、寄附金控除、障害者控除、寡婦(寡夫)控除、ひとり親控除、勤労学生控除、配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除、基礎控除です。
給与所得控除55万円+基礎控除48万円=103万円の壁
所得控除の中で、誰もが利用できるのが「基礎控除」。この基礎控除の額が48万円。ただし、控除額が48万円なのは所得2400万円以下の場合で、所得が2400万円超2450万円以下で控除額32万円、所得2450万円超2500万円以下で控除額16万円、2500万円を超えると控除はなくなります。この基礎控除は2019年までは38万円でした。2020年からは基礎控除が増え、給与所得控除が減ったということになります。
給与収入の人は、給与所得控除が最低でも55万円ありました。この55万円と基礎控除の48万円を足して、103万円というのが「103万円の壁」の理由です。給与の収入が103万円なら、給与所得控除55万円、基礎控除48万円が引かれ、所得がゼロになるということですね。
2019年までは、基礎控除が38万円でしたので、給与所得控除65万円と基礎控除38万円を足して103万円でした。控除の金額が変わっても、パートやバイトなどの給与収入では、同じ103万円ということです。
このようにアルバイトの学生がバイト年収103万円までであれば、親から見て扶養親族と認定されるというわけです。そして親の所得税を計算する時に扶養控除が適用され、親の所得税が安くなるというわけですね。
生命保険料控除があれば115万円の壁?
扶養控除を受けるための壁は、あくまでも103万円ですが、自分自身が所得税を払わなくていい 「103万円の壁」のほうは、もうすこし高くできますよ。それが生命保険料控除です。この生命保険料控除は、対象となる生命保険料や個人年金保険料、介護医療保険料を支払った場合に、最大4万円ずつ、あわせて12万円の控除が受けられます(平成24年1月1日以後に締結した保険の場合)。ただし、平成23年12月31日以前に締結した保険のみの場合は、生命保険料、個人年金保険料の控除が5万円ずつで合計10万円の控除となります。もちろん、自分自身の名義での契約であることが条件です。
では、実際にどのように控除が変わるのでしょうか? 加入中の保険がすべて平成24年1月1日以降の契約、というケースでみてみましょう。
4万円の控除を受けようと思うと、年間8万円以上の保険料を支払う必要があります。もし、控除の対象となる生命保険料を年間8万円以上支払っていれば、103万円の壁は4万円プラスされて107万円となります。
また、個人年金保険にも年間8万円以上支払っていれば、こちらも4万円の控除が受けられますよ。控除が受けられる個人年金は条件がありますので、保険会社に確認してみてください。この個人年金保険でも控除を受けられるとすると、最大4万円の控除がありますので、さらに4万円プラスされて、111万円の壁になります。
同様に介護医療保険も、年間8万円以上の保険料を払っていれば、控除の額は4万円加算されて115万円ということになります。
つまり、生命保険料控除を12万円適用できるとすると、年収115万円までは、自分自身の所得税を払わなくてもいいということ。103万円の壁が115万円まであがったということです(親の扶養控除の適用は年収115万円では受けられません。あくまで、自分で支払うべき税金の話です)。
他にも、医療費控除などを利用すれば、さらに壁は高くなります。
「103万円の壁」はそんなに怖いものではありませんが、パートやアルバイトをしている学生さん、フリーターの人は、「どうして103万円の壁」なのかを知っていると知らないのとでは大違いです。この金額のカラクリを知って、損のない働き方をしてください。
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