文章:郡司 勇(All About「温泉レポート」旧ガイド)
今年の温泉ベスト10!日本を代表する温泉研究家、郡司勇(温泉レポート)と、藤田聡(日本の名湯)両ガイドによる、年末恒例の特別対談!互いの温泉観も含め、今年も温泉好き必見の奥深い対談となりました。
それでは今年も早速、温泉好きによる、温泉好きの為の対談を始めます!
なお、対談の前半は、日本の名湯の今年の温泉ベスト10 <2008年 対談前編>にあります。
また、過去の対談は以下にあります。特に、当対談の主旨説明は2006年の冒頭にありますので、今年初めてご覧頂いた方は、2006年の対談も合わせて参照願います。
今年の温泉ベスト10 <2006年 対談前編>
今年の温泉ベスト10 <2006年 対談後編>
今年の温泉ベスト10 <2007年 対談前編>
今年の温泉ベスト10 <2007年 対談後編>
テレビチャンピオンを三連覇した味覚の極意
<藤田> 対談の前編では「五感で感じる温泉の魅力」のテーマの下、温泉における五感の重要性に始まり、嗅覚と視覚での温泉の楽しみについて議論して来ました。ここからの後半では、五感の残りの要素について、考えてみたいと思います。まず味覚です。郡司さんはテレビチャンピオンを三連覇されましたが、その強さを支えていたのが、恐るべき味覚の鋭さだと私は思っております。テレビチャンピオンでは、決勝など最も重要な局面で飲泉問題が出され、その出来如何で栄冠の行方が決まっていたように思うからです。
飲泉問題で郡司さんの右に出る人は、今までも居ませんでしたし、今後も出ないのではないかという気がする程です。そんな郡司さんにとっての、温泉での味覚に関する楽しみや、思い入れなどを、ご紹介いただけますでしょうか?
<郡司> 温泉に入浴して、意識的に湯を飲まなければ分からないのが味覚です。しかし、味覚がいちばんその湯の個性や成分が分かります。テレビチャンピオンで温泉地名を当てる「利き湯」をするのも、飲んでみなければなりません。
湯を飲むとまず泉質が分かるのです。9種類の泉質は味覚がすべて違います。そのため温泉地が分かるというよりも、まず泉質が判明するのです。
硫黄泉はたまご味や苦味があり、酸性泉は酸っぱく、含鉄泉は金気味や渋味、重曹泉は重曹特有の薬味があり、二酸化炭素泉は炭酸味がします。塩化物泉は当然塩味がしますし、硫酸塩泉は薬味や苦味など特有のものがあります。
特別なのが明礬泉です。これは渋味が強く収斂味と称していますが渋柿を食べたように口が弱くしびれるような味覚です。全国にも毒沢や恵山などしか、純粋な明礬泉はありません。
これは慣れてくるとすぐ判明します。それで、それぞれの泉質が判明すると共に、その味覚の強弱によってその湯の成分総量、つまり濃さが分かるのです。成分総量と泉質、この2つの項目で、この湯が全国の温泉の中のどの温泉地であるのか、かなりの絞込みが出来るのです。
皆さんも入浴しただけでは味覚は分からないので、新鮮な湯口の温泉を少し含んでみて味覚を確かめてください。温泉によってこんなにも味覚が違うのかと驚かれると思います。また飲むと同時に匂いも判明するので、その温泉のかなりの部分が確認できて楽しみが増します。
テレビに出ない限り、お湯当てをするという機会などありませんが、各地の名湯などの泉質は記憶に残ります。私は味覚を確かめるのが楽しいので、温泉に行くと必ず飲泉するようにしています。
<藤田> いやあ、郡司さんから直接、飲泉問題の解き方を伝授頂けるとは、予想もしていなかったので、感激しました。
私は個人的には「風呂は浸かってなんぼ」だと思っています。浸かった時に何を感じることが出来るかが、大事だと思っているのです。仮に猛烈に個性的な味覚の源泉があっても、湯船の湯に浸かった状態で感じる物が少ないと思う場合には、味覚だけで評価が急上昇とは行かないです。あくまで浸かった時に感じる事を優先したいと思っているので、味覚は分析表を見るのと同じく、浸かった時に感じたことの確認の意味、参考情報的な位置づけのように私は思います。
もちろん、浸かっている時は特別な感触が無かったのに、飲泉して初めて、味から温泉成分を感じるのは、嬉しいものです。しかし、温泉に浸かれば良し悪しの多くは分かりますので、飲泉して初めて源泉の良さを感じるというケースは、そう多くは無いように思います。
一方で、浸かった時に良い温泉とは分かっていても、飲泉することで源泉の良さを一層感じたり、源泉の質の違いを明確に意識することは多いものです。よって、飲泉自体の重要性はいうまでもありません。
味覚で特に嬉しいのは、やはり酸味だと思います。他の味は、泉質や湯の様子から推測出来ることが多いのですが、単純酸性泉などで、分析表を見ずに浸かった場合に、単純泉と誤解していて、飲泉で酸味に驚き、感動する場合があったりします。
また強酸性の明礬泉では、浸かった感触は大差無くても、源泉毎に酸味の強さと質が千差万別で、その奥深い魅力に引き込まれてしまいます。本当に柑橘系のフルーツかと思うような酸味もあれば、化学薬品のように、好きになれないと感じる酸味もあり、同じ温泉地でも、あまりの味覚の違いに驚かされることも多いのです。そこまでの嬉しさ、奥深さを感じるのは、酸味ならではという気がします。
なお、飲泉自体について念のため申し添えますと、昔はどんな温泉でも、自己責任で飲泉することが多かったのですが、近年は情報公開が進み、湯の扱いも掲示してあるので、同じ自己責任でも比較的リスクが少ないと判断される場合にしか、飲泉しなくなりました。もちろん、原理原則的に言えば、飲泉は飲泉所で行うべきものであることは、いうまでもありません。