ロンドン/ロンドンのお土産・ショッピング

ロンドンでクリスマスプレゼントを探して(4ページ目)

「ガイドが贈るショートストーリー」コラボ企画:イギリス編。仕事一筋に生きてきた美咲。その美咲が生まれて初めての海外旅行の地に選んだロンドンで、不思議な出来事に遭遇します。

執筆者:平良 淳


冷水

christmas present
 
その夜、ホテルに戻った美咲は、興奮さめやまぬまま、日本に電話をかけ、かつての同期で今でも親友の良子に、その日の不思議な出来事を一気に話した。レスター・スクエアを歩いていたら、金髪のハンサムな青年に話しかけられ、いろいろ案内してもらったこと。その青年は不幸にも盗難にあい、パスポートもお金も持っていなかったこと。それで、食事をごちそうして、その後、ロンドンのパブやバーを何件かはしごして、ついさっきホテルに戻ったこと。



「あなた正気なのっ?!」
良子の怒鳴り声にも近い声に、美咲のほろ酔い気分は一気に醒めてしまった。
「あなたってほんと世間知らずなんだから。ロンドンになんて、ひとりで行かせるんじゃなかったわ。まさか、犯罪に巻き込まれるなんて……」

美咲には、良子の言っている意味がよく分からなかった。
「だから、単なる詐欺師なのよ、その男は!」

反論しようとする美咲をさえぎって、良子が聞いてきた。
「あなたまさか、その男にお金を渡したりしてないわよね?」
美咲は、答えることができなかった。受け取ろうとしないアレックスのポケットに、半ば押し込むようにして、数百ポンドのお札を入れてしまっていたのだ。



電話を切ると、急に虚しさが押しよせてきた。コベント・ガーデンでのウィンドウ・ショッピング、大英博物館での会話。すべてが、計算された手口だったとは……。

ホテルのベッドに身を投げ出した美咲は、いつまでも肩を震わせていた。涙が止まらなかった。そのとき、美咲はあることを思い出した。
「明日、ポートベロー・マーケットで会いましょう」
アレックスは確かにそう言った。なかなか帰りたがらない美咲をなだめるように、「ポートベローへ来てくれれば、また会えるから」、とアレックスは言ったのだ。

ポートベローに行ったとしても、良子が言うように、アレックスが詐欺師なら、彼は現れないだろう。そうなったら、自分がもっと傷つくような気がした。でも、このまま日本に帰ってしまったら、幻想にしがみつくことはできても、真実を確かめることは二度とできない。美咲は、気持ちの整理をつけることができなかった。

「わたしは、どうすればいいの……」



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