山の中へタイムスリップ

「木曾路はすべて山の中である」。
島崎藤村の夜明け前の書き出しのように、木曽の町は、深い谷底に連綿とつながる。木曽11宿と呼ばれ、かつての中山道の面影を色濃く残す町並みは、どこか懐かしく、宿のある木曽福島も、まるで江戸時代の街道にタイムスリップしたような町だ。

おん宿蔦屋
鉄筋建ての旅館に木をふんだんに使い、リニューアル。館内には千本格子や囲炉裏を復活させた
そんな木曽福島の街道筋に立つ一軒の小宿が、「おん宿蔦屋」。江戸中期に旅籠として創業。以来、木造から鉄筋へと姿を変えつつも、街道をゆく旅人や御嶽講の信者を泊めてきた。そして、08年のリニューアルで、古きよき時代の千本格子や木曽に伝わる「おごっつお」を現代風に蘇らせ、宿場町に佇むモダンな「隠れ宿」として生まれ変わった。
ところで、木曽には、冬にしか入手できない「幻の漬物」があるのだが、その漬物がこの宿の献立に使われているという。その漬物には植物性乳酸菌が驚くほど豊富で、花粉症や気管支ぜんそくなどアレルギー症状を抑制することで知られているのだが、さて、どんな漬物なのか。
おん宿蔦屋の冬の楽しみでもある。
木曽福島は、名古屋からわずか90分。新宿からも直行高速バスに身をゆだね4時間。ちらちらと雪の舞う静かな町だ。木曽福島駅に降り立つと、いかにも山の中に来た!という雰囲気満点。隠れに来たぞというシズル感が湧いてくる。「おん宿蔦屋」は1万円代で気軽に泊まれ、冬の期間中は一層安くなる。2室ある露天風呂付きの客室も、冬なら1万円代とお得。静かな冬は木曽のベストシーズンかもしれない。

露天風呂付き客室
2室ある露天風呂付き客室。露天風呂の眼下には木曽川が流れる
宿に到着すると、ロビーの炉端で、プチ五平餅でもてなされる。木曽といえば五平餅といわれるくらい、昔からの名物だ。「どうぞ」という言葉にはどことなく愛嬌のある方言が混じる。おん宿蔦屋は、内装こそモダンだが、従業員の皆さんはなんとも素朴だ。若女将に聞くと、マニュアルを廃し、一人一人の地のまま接客するようにしているとのこと。木曽の人情味あふれる接客がうれしい。
ロビーの奥にあるお風呂は、木曽川に面した温泉露天風呂と、古くからの胃腸薬として伝わる「百草丸」の成分を籠に入れて浮かせた内湯の二種類。信州には古くから薬草風呂に入る風習がある。もちろん、温泉もよい湯だが、「漢方」の湯もなかなかオツなものである。
さて、ひと風呂浴びた後は、お楽しみの夕食!