1万円のうち、「施設」と「営業」はゼロ。「人の料金」が2分の一。すると、残る「食事」の料金は、やはり2分の一の5千円ということになります。それは売値ですが、食材にかかる原価は売価の概ね30%。つまり、5千円の食事の場合、原価は1,500円となります。朝食が300円の「のり玉定食」とすれば、夕食原価は、1,200円です。
つまり、この例の場合、夕食では「原価1,200円の食材で作った料理がお部屋に運ばれてくる」と考えることができます。
それが良いか悪いかは、誰と行くかにもよりますが、私の場合、ひとり旅で1,200円の夕食なら充分。でも、家族や友人のために取った宿であれば、ちょっと内容的には恥ずかしいかな・・・。
人のための旅行で恥ずかしくない夕食原価というなら2,000円、が私の判断基準。1,200円では、質はそう追及できないと思います。
ところで、皆さん、食事はわかるけど「人」に5千円!?と思われたかもしれません。そう、案外忘れているのが「人」の料金。
実は「サービス」には大変なコストがかかっているのです。
最近の新しい宿をよく調べてみてください。
おそらく、食事のお部屋出しはあまりなく、ほとんどが「食事処やレストラン、茶屋、ビュッフェ会場」などでのお食事になっていないでしょうか。
あるいは、布団敷きの必要な和室を減らして、布団敷き作業が不要なベッドルームが増えていないでしょうか。
これは、旅館として「人」のコストを減らして料金を下げているのです。
仲居さんのサービスがよくなかった、という苦言もたまに聞きます。
でも、失礼を省みず言えば「では、あなたはいくらお支払いになられましたか」とお聞きしたいのが本音です。日本人は、アマンリゾートのバトラーサービスには多額のお金を支払うのに、旅館での人のサービスはゼロ円と思っているのが実情。さらに、ほぼ全てのお客様が同じ時間にチェックインして、同じ時間に食事するので、(待機時間も長いのですが)作業が集中する時間には、仲居さん、てんやわんや。少ない人数で一生懸命働いて、苦情にもなろうものなら、「やってられない」という彼女たちの本音もあるのです。
私は、お部屋出しには「客室サービス料」を新設することを望んでいます(同時に、わけのわからない一律の「サービス料」の廃止・見直しも必要)。
そのほうが、お客様にもわかりやすく、仲居さんの面目躍如や職場環境の改善にもつながるはずです。
さて、話は長くなりましたが、あなたが今回の宿選びで譲れない要素は何ですか?
施設の新しさやお部屋の広さ、あるいは週末の宿泊ですか?
あるいは、上げ膳据え膳の人的サービスですか?
宿選びの労力を短縮してくれる旅行会社ですか?
それとも、食事のクオリティですか?
それを全て満たして安い宿、というのは、ありません。
どこを譲るから、安くして、と考えて欲しいのです。
どこが満たされていないから、安くできるのだと知って欲しいのです。
本来であれば、旅館側も、一泊二食の曖昧料金で売るのではなく、それぞれの要素ごとの料金を明示して売って欲しいのですが、旅館業界も旅行業界も、なかなか重い腰が上がりません。
内容を明らかにしないで苦情を言われても仕方ないのに、です。
むしろ、苦情を言われる仲居さんだって、曖昧料金の犠牲者かもしれません。
それならば、買う側が、少し知識防衛してかかる必要があります。
宿選びをするときには、旅館料金とは「4つの要素」で成り立っているのだ、と思い出していただければ幸いです。
それでは、よい夏休みを!
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