■旨味と香の『染み出し』と『染み込み』
『おでん』と言っても味噌味・鶏スープ味・カツオと昆布の醤油味などなど様々なお出汁のバリエーションがある上に、おでん種は千差万別。
おでん種から旨味が染み出すプロセスを経て、次に様々なおでん種の旨味や香がお互いにハーモニーを奏でながら、それぞれの種に染み込んでいく。この染み出し・染み込みこそ、おでんの真骨頂です。ご家庭でもこの染み出し・染み込みプロセスを守れば、美味しくなるのがおでんの持ち味でしょう。
■辛口の男のおでん
ところで皆さんのお好みのおでん種は何ですか? また、嫌いなおでん種は何ですか?
私の好きな種は様々な旨味成分が染み込んだ大根・卵・こんにゃくです。もちろん、その強力なお出汁を生み出す味の根源が必要です。私はどうもコラーゲン系が好きでして、牛スジ・タコは外せません。一方、あまり手が出ない種はずばり『練り物』です。私は男性のかなりの割合、それも辛党の方は練り物がそれほど好きではないと思います。第一、あの甘さがどうも好きになれません。
そんな訳で今回は練り製品を一切使わないで、辛口の男のおでんを作ることにしました。
今回の材料のポイントはズバリ旨味を生み出す3人の主役です。茨城県の大洗から活きの良いマダコ、滋賀県の近江から近江牛のスジ、和歌山の太地から鯨の様々な部位を取寄せました。もちろん、お出しのベースは日高昆布の新もの一等品と枕崎の本枯節の血合い抜きを使いました。うまいお出汁さえ出来れば、それを吸い込む大根や卵はその辺のスーパーで売っているもので十分です。
■うまいタコを食べるために揉みまくる
それでは下ごしらえです。下ごしらえさえ良ければ、後はほっておいても美味しくなるのがおでんです。ちょっと面倒でもここは気合を入れて頑張りましょう。
先ずは大きな鍋にタップリとお湯を沸かします。沸くまでの間にタコの下処理をします。タコは殆ど活け状態ですから、ヌメヌメして吸盤が指に吸い付いてきます。タコの頭をひっくり返し(ちょうどコートのフード部分を裏返す感じです)内臓を包丁で切り取ります。次に目の部分に包丁で切れ込みを入れ、手で目をえぐり取ります。続いて8本の足の付け根にある口のくちばし(歯の部分)を取ります。ここまで終ったらタコをボウルに入れます。
たぶん、お湯が沸いている頃ですから、お湯に牛スジを入れ霜降りにします。全体が霜降りになったらザルに上げ、流水で汚れや血を洗い流します。この作業をきっちりしないとおでんの出汁が濁ってしまいます。スジは食べやすい大きさに後で切り分けて竹串に刺しておきます。
スジをザルに上げたらタコに戻ります。タコには塩も何も入れないで、ボウルに入ったタコをひたすら両手で揉みます。揉んでいるとヌメヌメが細かな泡になりますが、この白い泡がタコの皮を保護するので決して洗わないで下さい。ひたすら揉む。もんでもんで揉みまくります。約30分もするとタコの表面のぬめりが取れてきます。この作業でタコのうまさが決まります。揉んでいる途中で大鍋にお湯を沸かします。
もみ終わったタコを軽く茹でます。本格的に火を通すのはおでんだしの中ですから、ここではぬめりを落とし、生臭さを取り、タコの形を整える程度です。タコの頭を持って足先を少しずつ熱湯に浸けては上げて、足を丸めていきます。色が変わると同時にタコの足が丸まってきますので、きちんと丸まったところで頭までをお湯に入れます。見る見る内にタコに火が入り固まっていきます。全体の色が変わり、さっと火が入ればOKです。タコを出して冷ましておきます。この作業が面倒であれば味は落ちますが、茹ダコを買ってくる手もあります。
さて次は、下味つけに挑戦>>