「人」を描くことの意味
祈りを捧げる女性。バチカンにて。©NHK「探検ロマン世界遺産」 |
どうして「人」なのですか?
寺井CP:
歴史は点ではありません。世界遺産を築いた人がいて、そこに住んだ人がいて、現在住んでいる人がいる。すべてがつながっていて、みな歴史の中に生きています。世界遺産にはいずれも数百年・数千年、自然遺産なら億というような大きな流れの中を生き抜いてきました。単純に「古いから」「芸術だから」「はじめてだから」残すというとらえ方には私は少し違和感を覚えます。日本人は、ムハンマドの直弟子につながる末裔のように数百年も前の先祖のことなど誰も気にとめていませんが、私たちにもそんな歴史があるのは確かです。人はみな歴史の流れや人と人とのつながりの中で生きているわけです。そうした歴史や人を感じて記憶することこそが、「世界遺産を守り伝える」ことにつながるのではないかと感じます。そのためにはまず歴史のおもしろさを伝え、感動していただいて、自分も歴史の中にいることに気づいていただけたら、それだけでも意義があると思っています。
ガイド:
世界遺産には自然遺産もありますが、こちらの魅力は?
寺井CP:
人間も自然も生きています。やはり大きな歴史の中にいることは変わりありません。また、たとえば自然の中に生きるアフリカのトワ族(ピグミー)のような人たちはもちろん、このままでは消えてしまうと言われているアフリカのキリマンジャロ山の氷河の後退を調べ続けている人たちもいます。氷河の後退は私たちの生活にも大きな関係がありますし、結局人は自然の中でしか生きられません。人から切り放した単独の自然というのではなく、人を生かすものとしての自然、人と自然との関係性を重視して描きたいと思っています。
世界遺産を楽しむコツ!
万里の長城の雄大な景色。©NHK「探検ロマン世界遺産」 |
世界遺産を楽しむうえでのコツやアドバイスはありますか?
寺井CP:
たとえば万里の長城に行くとそのスケールに圧倒されます。自分の足で万里の長城を歩くと、印象はまったく変わると思います。それでも歩ける場所はごく一部です。それを延々数千キロも造るというのは尋常ではありません。当然、なんでこんなものを造ったのか?という素朴な疑問が湧いてくるでしょう。それを調べていくと、またいろいろおもしろいことが見えてきます。なぜこんなに大きいのか? なぜこの形でなければならなかったのか? なぜここにこんなにキレイな絵を置いたのか? それらの疑問を調べるとおもしろさは二重三重に広がっていきます。
ガイド:
そして歴史の流れが見えてくる。
寺井CP:
歴史を知って、その場に立ち、そこにいる人々と出会うことで、自分自身もまた歴史の中に生きているということに気づけるかもしれません。そうしたら日本の歴史や自分の家族や先祖の歴史にも興味を持てるようになるのではないでしょうか。歴史を知るとか記憶を守るというのは、そういうことであるような気がします。
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