世界遺産/世界遺産関連情報

世界遺産を救え! 危機遺産リスト2006

2006年7月時点で、危機遺産リストはいままさに崩壊の危機にある世界遺産として31の物件を登録している。今回はこのすべての世界遺産とその登録理由を一挙公開する。

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

岩のドーム
イスラム教の聖地・岩のドーム。すぐ下にユダヤ教の聖地・嘆きの壁、近くにはキリストが死の直前に十字架を背負って歩いたヴィア・ドロローサがある。
2006年7月時点で「危機にさらされている世界遺産リスト」、すなわち危機遺産リストには31の世界遺産が登録されている。ここではそのすべての危機遺産とその登録理由を紹介する。いったいどうして世界遺産が消滅するような事態が起こるのか? それに対してどう解決しようとしているのか? 世界遺産が置かれている状況と世界遺産条約の精神を感じてほしい。

なお、2007年の改訂版記事はこちら。
  • 世界遺産を救え! 危機遺産リスト2007


  • ※リストの見方
    ■国名
    世界遺産名
    世界遺産への登録年、登録基準、危機遺産リストへの登録年
    (登録基準についてはいまさら聞けない世界遺産の基礎知識へ)

    ヨーロッパの危機遺産

    ■ドイツ
    ドレスデン・エルベ渓谷
    2004年、文化遺産(ii)(iii)(iv)(v)、2006年
    文化的景観の喪失。エルベ川への橋の建築計画に対し、橋が景観に深刻なダメージを与えて普遍的価値を損なうとして、危機遺産リストに登録。計画が実行された場合は、2007年の世界遺産委員会において世界遺産リストから抹消することも示唆している。

    ■セルビア共和国
    コソボの中世遺跡群
    2004年、文化遺産(ii)(iv)、2006年
    不安定な政治状況と管理・保護体制の不備。現在コソボはセルビア共和国内にあるものの、国連の暫定統治機構が展開して実質的に独立した状況にある。独立の気運は高いもののセルビアは独立を容認しておらず、予断を許さない。

    北中南米の危機遺産

    ■ペルー
    チャンチャン遺跡地帯
    1986年、文化遺産(i)(iii)、1986年
    風雨による浸食。日干しレンガや土壁は風雨の影響を受けやすい。エルニーニョ現象などによる降水量の増加によって壁が溶け出すなど、遺跡に深刻なダメージを与えている。地球規模で起こる温暖化の影響はいかんともしがたいが、水路など排水設備の整備や修復活動の拡充が図られている。

    ■アメリカ
    エヴァーグレーズ国立公園
    1979年、自然遺産(viii)(ix)(x)、1993年
    都市化や洪水対策の整備に伴う水位低下、化学肥料や水銀による水質汚濁、1992年8月のハリケーン・アンドリューによる自然破壊など。

    ■ホンジュラス
    リオ・プラタノ生物圏保護区
    1982年、自然遺産(vii)(viii)(ix)(x)、1996年
    商業地および農業地の保護区への拡大、保護区への不法滞在、密猟、水力発電計画。

    ■チリ
    ハンバーストーンとサンタ・ラウラ硝石工場群
    2005年、文化遺産(ii)(iii)(iv)、2005年
    地震の影響や建築素材の盗難・破壊行為、塩害による腐食や構造上の脆弱性。

    ■ベネズエラ
    コロとその港
    1993年、文化遺産(iv)(v)、2005年
    2004年11月~2005年2月にかけての豪雨による遺産破壊と、新しい建築物の建設による景観や価値の破壊、適切な管理・保護の計画・体制の不備。

    アジアの危機遺産

    ■エルサレム(ヨルダンによる申請)
    エルサレム旧市街とその城壁
    1981年、文化遺産(ii)(iii)(vi)、1982年
    無秩序な都市化や急激な観光開発、複雑な政治状況。貴重な宗教的・文化的建築物を守るための様々な活動が継続して行われている。

    ■インド
    マナス野生生物保護区
    1985年、自然遺産(vii)(ix)(x)、1992年
    保護区への民族軍の侵入・駐留・施設破壊や密猟。現在反政府勢力の活動は沈静化しつつあり、絶滅の危機に瀕しているインドサイやベンガルトラ、インドゾウの数は回復の傾向にある。

    ■イエメン
    古都ザビード
    1993年、文化遺産(ii)(iv)(vi)、2000年
    都市化、ビルの増加、違法建築。多数の住人が旧市街からビルへ移動するなど、古都の保全環境が破壊され、景観が失われつつある。

    シャーリマール庭園
    タージ・マハルを建築したシャー・ジャハーンが建てた保養施設シャーリマール庭園。
    ■パキスタン
    ラホールの城塞とシャーリマール庭園
    1981年、文化遺産(i)(ii)(iii)、2000年
    遺跡の破壊。1999年、道路拡張により庭園の貯水池の一部が取り壊された。しかし現在保護体制は急速に整備されつつあり、危機遺産リストからの削除も示唆されている。

    ■フィリピン
    フィリピン・コルディリエラの棚田群
    1995年、文化遺産(iii)(iv)(v)、2001年
    管理体制の不備、棚田の崩壊・景観破壊。村民の村離れが深刻化し、約3割の棚田が放棄されているという。田の放棄は水利システムの停止と棚田の崩壊をもたらし、連鎖的に別の田へ被害を拡大する。一方で不法開発が行われるなど、包括的な管理体制の充実が待たれている。

    ■アフガニスタン
    ジャムのミナレットと考古遺跡群
    2002年、文化遺産(ii)(iii)(iv)、2002年
    損傷や盗掘、周辺への道路建設、保護体制の不備など。現地民の通路確保や保護体制の整備が求められている。

    ■アフガニスタン
    バーミヤン渓谷の文化的景観と古代遺跡群
    2003年、文化遺産(i)(ii)(iii)(iv)(vi)、2003年
    仏像の崩壊や壁画の状態悪化、略奪や盗掘など。2001年3月、タリバンにより2体の仏像が破壊された事件は世界的なニュースになった。

    ■アゼルバイジャン
    城壁都市バクー、シルヴァンシャー宮殿、及び乙女の塔
    2000年、文化遺産(iv)、2003年
    2000年11月の地震による破壊、都市開発、保護政策の欠如。遺跡保護はもちろん、都市開発や観光に対する管理も求められている。

    カトマンズの谷
    特異な景観が美しいカトマンズの谷。日本の寺社風景に通じるものがある。
    ■ネパール
    カトマンズの谷
    1979年、文化遺産(iii)(iv)(vi)、2003年
    無制約な都市開発による類まれな建築様式の漸次的な喪失。景観の保全と伝統的建築様式の保護が求められている。

    アジアの一部とアフリカの危機遺産は次のページへ。
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