美しい 日本の邦題
映画の原題はシンプルなものが多いのに対し、日本の配給会社がつける邦題は凝ったものが主流です。抱腹の脱力系珍邦題トップ10でご紹介したように、ひねりが効きすぎて、?なものも少なくありませんが、中には簡潔かつ映画のもつテーマを凝縮していて、一読しただけでどのようなストーリーか感じ取れる名タイトルもあります。White Palace (90) 『ぼくの美しい人だから』 |
では、「ぼくの美しい人」とはどんな女性なのでしょうか。深読みするようですが、単に見た目が美しい女性のことを言っているだけでは、タイトルに重みがありません。「ぼくの」と断っているあたりに、決してすべての人がその女性を美しいと思っていないというニュアンスが含まれてはいないでしょうか。
あなたは私を恥と思っている
最愛の妻に先立たれたマックスと、息子を失って以来深い悲しみの中にいるノーラ。互いの心に開いた穴を埋め合わせるように肌を重ねる2人は、そのまま予期せぬ恋へと落ちて行きます。ところが、惹かれ合う2人の間にはどうしても埋まらない溝があります。それは、マックスは広告代理店に勤める28歳の美しいエリート青年、ノーラはハンバーガーショップに務める貧しいその日暮らしの43歳という、年齢の差と圧倒的な環境の違いでした。互いに惹かれているのに、ノーラは自分の年齢と教養のなさを卑下し、マックスはそんなノーラを友人に紹介することをためらっている。やがてノーラは、マックスに何も告げることなく街を出て行きます。ノーラと出会う以前の生活に戻ったマックスは、上流階級がもつ立て前だけの空虚な人間関係に、もはや自分は属さないと気づきます。いつも正直で素直に本音をぶつけることができるノーラこそ、自分が愛する人。ノーラの生き方こそ、自分が最も求める生き方だと知るのでした。
邦題を英語に訳すと、意外な名作に
My Fair Lady (64) 『マイ・フェア・レディ』 |
他のだれに非難されても、自分の心が求める人を愛する。様々なしがらみにとらわれることなく信念を貫くことは容易ではありません。でも、自分の心の声を無視して生きれば、いつか必ず後悔する日が訪れます。ノーラの姉が残した名刺の住所を頼りに、ノーラの居場所を探し当てるマックス。精一杯の強がりで「大卒のかわいい女の子を見つけなさい」とつっぱねるノーラをまっすぐ見つめ、自信をもってこう言います。
People discover things about themselves and their lives, don't they?
And they only hope that it isn't too late.
I want you. I love you, Nora.
過ちに気づいたら、手遅れになる前にやり直すんだ
ぼくが愛しているのはノーラ 君なんだ
仕事を辞めて、ノーラの住む街に引っ越してきたマックス。極端にも思える選択ですが、このセリフから、目先の愛に溺れた男の軽はずみの決断ではないことがわかります。自分の内なる声に気づかせてくれたノーラは、マックスにとって申し分のない(=fair)美しい人なのです。
『ぼくの美しい人だから』 White Palace (90)
監督●Luis Mandoki ルイス・マンドーキ
出演●Susan Sarandon スーザン・サランドン、James Spader ジェームズ・スペイダー他
『マイ・フェア・レディ』 My Fair Lady (64)
監督●George Cukor ジョージ・キューカー
出演●Audrey Hepburn オードリー・ヘップバーン他