字幕翻訳者としてブレイクするまで
少しずつ映画翻訳をさせてもらえるようにはなりましたが、それでも一年に1本、2,3本というペースが何年も続きました。40歳代になってから、映画『地獄の黙示録』のロケに通訳として同行したところ、コッポラ監督が「彼女、字幕翻訳がやりたいみたいだね。やらせてみたら」と上司に推薦してくれて、翻訳をさせてもらえることに。上司たちは「大丈夫かな」と思ったと思いますよ(笑)。そうしたら、その映画の翻訳が話題になり、「彼女はできる」ということになってブレイク。それからは、どんどん字幕翻訳の話が入ってくるようになりました。年に数本、だったのが、一週間に一本になったのです。やりたい仕事が向こうからやってくるなんてことはありません。私は、30歳代までアルバイト。40歳代でやっと世に認められるまでになりましたが、それまで20年かかりました。字幕翻訳という仕事~最も大切なのは「日本語」
翻訳は、「日本語が大事」です。観たいなと思わせる日本語を生み出すこと、人の心をかき立てる日本語を生み出すことは本当に大変な作業です。英語が流ちょうというだけで「字幕翻訳者になりたい」という人がよくいますが、それだけでは字幕翻訳はとうてい無理。日本語の力を養うためには、良い日本語の本を読むこと。そして書くことが大切です。また、なるべく映画に集中してもらうために、字幕は最小限にする必要があります。映像の中の俳優さんが話している間に読み始め、読み終えなければならないのです。人が映画を観ながら字幕を読むことができるのは、1秒間で3文字程度。とても早口で長い台詞を、数秒で読める日本語、すなわち10文字程度に収めなければならない、なんてこともあります。
難しい翻訳はジョークですね。「悲しい」という感情のツボは概ね全世界共通していますが、「笑い」はそうでなかったりします。さらには英語を基軸にしたジョークは、同じような日本語のジョークに変えなければいけないので、本当に頭を悩ませます。
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