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晩年の藤田嗣治を追い、ランスへ(3ページ目)

パリ郊外、藤田嗣治のアトリエで出会ったあのすばらしいフレスコ画はシャペル・フジタ教会の為のもの。じゃあ、この目で彼の画業の集大成を見てみましょ、ってことでやって来ました、シャンパーニュの中心ランス。

執筆者:赤木 滋生

ついでだからMUMMを一杯


広大な瓶詰め工場の地下はカーヴが網の目のように広がり、壮大なダンジョンと化している。
大きな工場の一角に見学用の入り口があり、レセプションで手続きをとる。われわれだけではいかにも人数が少ないので観光バスで来る団体さんたちといっしょの見学になるそうだ。所要時間は約40分。1種類、2種類、3種類と試飲の数で見学料が異なり、種類が多いほどお得な設定になっている。

シャンパンが発泡し熟成してゆく過程はすべて、年中気温が変わらず十分な湿度の保たれる地下のカーヴで行われる。このMUMMのカーヴは広い工場敷地の地下一杯に広がっており、総延長なんと25キロというとてつもないもの。
ぶるるっ、寒い地下のカーヴには長くて暗い、湿気た階段を降りて行く。バットや樽、シャンパンをくるくる回して発酵過程で均一に泡を回す回転台などが所狭しと詰め込まれている。
見学は階段を地下深くまで下り降り、その一部を見ることになる。ひんやり、というよりむしろ肌寒いじっとりと湿った洞窟をたよりない電球の光を頼りに進んでゆく。はるか前方は暗闇に吸い込まれどうなっているのやらも分からない不気味さだ。

枝分かれした丸天井の洞窟には何万本あるのかも見当がつかないシャンパンボトルの山がぎっしり詰まっており、縦横に穴の開いた木の板にはまだ発酵中で盛んに泡立つボトルが職人の手によってくるくる回されるのを待っている。
こちらは人気のブリュット・ロゼ。マム・ド・クラマンよりは手軽に買えるので、わが家にもまだ手付かずの瓶がある。
発酵も終わり静かに熟成の時を待つボトルはみごとにかびてまるで蔵の奥深く眠る骨董品のようだ。それにしてもなぜシャンパンが高いのか、作っている過程を見ればよく分かる。同じだけ希少な畑で、同じだけ手間をかけてぶどうを育てても、ビンに詰めてからの手間がとてつもなく面倒なのがシャンパン。同じぶどう酒なんだけれど、シャンパンのほうは発酵してからリキュールを加え、しっかりふたをして又発酵、炭酸ガスを封じ込める工程が加わる。

しかも良いシャンパンを造るためには絶えず、少しずつビンを回転させ続けねばならない。安価なものは機械でも回せるが、高級品であればあるほど回し方もデリケートになり、リキュールにも良いものが使われるようになる。原酒のブレンドも高級品種ばかりで行なうか、中には特急畑の単一種だけで作るものまででてくる。これでは高くついて当たり前だ。フルートに注がれたシャンパンは、見た目だけではワインに炭酸ガスを吹き込んだものと区別が付かない。しかし、ひとたび口に含むと、まろやかさと滑らかさはもう段違い。きめこまやかな泡はあくまでやさしく、心地よいフルーティな香りが鼻腔一杯に広がる、至福のひと時を与えてくれるというわけだ。
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