あの女はたまたまそばを通りがかったか、実は近所に住んでいる女だかでオレがカギをかけなかったことに気づいたのだ。そして、こちらが寝込んでいることを知って(酔うとイビキがひどくなるんだオレ)、ちょいと財布でも失敬しようという魂胆だったのだろう。
危機一髪
なんてこった。女の泥棒かよ。そういえば、あの女、靴を履いたままで部屋に入っていたな。とんでもないヤツだ。「はぁ~」とM本さんは深いため息をつきました。「ごめんね、か」フッと鼻で笑って首を振りました。マイッタなぁ。しかし、なんで、オレは起きなかったんだ? 声も出せなかった。あまりにもビックリしたからかなぁ。 人間は、あまりにも驚愕したときは身動きもできず、声も出せないものなのです。その上、かなり酔っていたため判断力も鈍っていたのでしょう。
女だったからまだマシだった。あれが男であってもおかしくなかったんだ。いや、ヘタをすれば、こちらが気づいたことであわてた相手が刃物を振りかざして、オレを襲ってもおかしくなかったんだ。ゾッとして酔いが一気に醒めたようでした。
オレって! |
いや、酒はまあいいとして、玄関のカギだけはかけないと。これからは気をつけよう。
さすがに恐ろしくなって反省したM本さんは、これからはカギだけはかけ忘れないように心に誓いました。何も被害はなかった…。警察に届けるったって、何も盗られたわけじゃないし。面倒だしな。おっと、もう会社に行く時間だ……。
届け出はすべき
M本さんは、結局、警察に届け出ませんでした。被害がなかったから、とのことですが、「住居不法侵入」であることは間違いありません。それに、「窃盗未遂」です。ドアノブや財布についた指紋や足跡。髪の毛の一本でも落ちているかもしれません。面倒だからと、届け出ないという気持ちは分からないでもないですが、届け出るべきでしょう。侵入に慣れた常習の窃盗犯だったかもしれず、余罪があるかもしれないのです。
→カギをかけ忘れる人々/泥棒さん、いらっしゃい/カギは命を守るカギ