掃除/掃除グッズ

“スウェーデンの”、黄色いブラシ(2ページ目)

あなたは住まいに「持ち込む」いろんな日用品を、いちいち「吟味して」いますか? 中身、パッケージ、価格……暮らしや住まい方そのものにジワリと影響する「モノ」。再考してみませんか?

藤原 千秋

執筆者:藤原 千秋

家事・掃除・子育てガイド

“スウェーデンの”日用品

そんな先日、スウェーデン在住邦人である知人が一時帰国するという報があった。「なにかお土産は?」というメールに、ちょっとわがままを言った。

スポンジワイプとブラシ。
「なんの変哲もない」スポンジワイプとブラシ。それなのにすっきりと綺麗。


「何の変哲もない、そのへんで売っている日用品を買ってきて欲しい」とお願いしたのだ。あまりかさばらないもの、重くもないもの、そんな漠然とした要求だった。

在典の知人自身は、「そういうモノは、日本のモノのほうが安い上に、物がいいんだけど」と言いながらも、黄色いブラシとスポンジワイプを買ってきてくれた。

なるほど何の変哲もない……けれども。待てよ、と受け取った後、思案した。

果たして、こんな色みの、装飾もプラスアルファの多機能性も何もないモノが、日本の「そのへんのスーパー」に売っているものか?
そう、家の近所の◎○●や、■×○●、△◎□……
ないな。まず無い。

でも、例えば。
駅ビルに入っているセレクト雑貨屋だったらどうだろう。デパートの中の有名カリスマ主婦による雑貨ブランドだったら?
きっとある。
そして、このブラシとスポンジワイプは、そんな店にこそ並んでいそうだし、もしかしたら同じモノが輸入されて売られているかも知れない。
その可能性は、おおいにある。だって、こんなにはっきりした黄色で、かたちもシンプルで、綺麗なのだ。

ちなみにこのブラシ、日本円にして百数十円というから決して高価ではない。どんどん使って、駄目になったら買い換える。そういうもの。

モノのデザインだの美意識だの実用性での北欧礼賛は今始まったことではないし、それほど手放しで賛美するものかという疑問も無いわけではないけれど、こういうモノが「そのへん」で「安く」買える(セレクト雑貨的なプレミアム無しに)とすれば、やはりどこかしら「さすがスウェーデン」と言いたくなってしまう(のも無理もない、と思う)。

この「こんなにはっきりした黄色で、かたちもシンプルで、綺麗」なモノが、セレクト雑貨屋で、「ブラシ一つに1000円近く」という道楽の先にあるものでなしに「在る」。


モノを選ぶということ

不景気だ格差社会だと大騒ぎされている割に、私たちは未だモノには事欠かずに暮らすことが出来ている。「ぜいたくだな」「道楽だな」と言い訳、「美意識も大事だし」とエクスキューズしながらもセレクト雑貨の類を「選り好みして」買い愛用する自由だって、まあとりあえずはある。

たとえ勿体無くて罪悪感に押しつぶされそうになっても、そこで踏ん張って10年前の100円グッズを不用品処分した上で、吟味した美意識にかなうデザイン色柄のモノを選び購入すること自体は、精神的に踏ん切りさえつけられればそんなに難しい話ではない。

やろうと思えば、家(マンション)を購入して新たに入居しようというときや、住まいを引っ越す際に、家具ごと劇的にライフスタイルを変化させることだってできる。まるで別人(別の国の人!)になったかのように、暮らし方ごとそっくり変えることも。例えば家の中でも土足で暮らすとか。

全て選びなおし、その場しのぎや必要に迫られての妥協で嫌々選んだものではない、皆自分の趣味や美意識にかなったモノで満たされた住まいは、どれほど快適なのだろう。ガイドもそう徹底した経験がまだ無いので、分からない。

住まいを掃除する道具ひとつ、きちんと吟味したものだという事実は自分をどう支えるのだろう。そうして住まいをケアする行為に、どう影響するのだろう。

あるいは、やはりそんな自分を指して「ぜいたく」であると罪悪感を抱き続けるのだろうか。


モノを選べなくなったとき

とはいえ、「ぜいたく」でも何でも、そうやって「選ぶこと」が出来ているうちはいい。
けれどそんな「選り好み」自体が今後不可能になる可能性もないではない。

或いはデザイン度外視の100円グッズでさえ吟味に吟味を重ね、悩みに悩んで「やっと」購入するというメンタリティは経済的事情由来のものでなくても、既にあり、それは決して「必要に迫られての妥協で嫌々」などではないのかも知れない。


「その場しのぎ的に/必要に迫られて」手近なところで手を打ったモノを買うのではない、「自分の美意識にかなったものを選んで」買う営為を漸く手に入れた私たちが、その自由を失ったとき、私たちは一体何を手にして、その生活を紡いで行けるのだろう、と時々考える。

自分の住まい方を、暮らし方を維持する身近なモノ、日用品、調味料やら食品やらも……が、手に入れるものの端から、目に余るほど粗悪で、どうしようもないほど美しくなくなったとしたら……。

かつて私たちの親の親、親の親の親……が生きた時代に、それは「あった話」だ。当時のメンタリティの傷は化石みたいなものになって尚、私たちにしみついている。ゆえの「実用品の見かけにこだわるのは悪いこと」意識として。

そう、この問題はどことなく私たちを時系列的に取り囲み、ループしている。



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