その場しのぎで買っても10年
「私は物持ちがいい。」そう言いながら人は、多くのモノに溢れた住まいにウンザリしながら暮らしている。とくにベビー用品など……不要になっても尚「もしかしたらもう一人授かるかもしれないし」「もしかしたら妹が結婚して子どもが出来たときに使うかもしれないし」……貴重な住まいのスペースを占めたまま、古びるままに「大事に」取って置いたままになってはいませんか? |
「物持ちがいい」こと自体は「モノを大事に扱う」に通じ、おそらく美徳の一種で、だからこそ「物を捨てる」ことには後ろめたさや罪悪感が伴う。
かくいうガイドもそんな物持ち良く・モノだらけの住まいにため息つく一人だ。とりわけ、目に触れるたび「なんとかしたい」と思わざるを得ない住まいの中のモノに対峙するだに、思い出されるのは「初めてひとり暮らしをはじめた時」と、「結婚して間もなかったとき」のこと。
そう、このキッチンのガタガタいう安っぽいラックも、このプラスチック柄の溶けた「おたま」と100円ショップで買った「下ろし金」も「爪切り」も、あのとき必要に迫られてとりあえず買ったまま、10年を超えてしまった。
10年間、満足して気に入って愛用して来たなら、それで問題ない。でもそうじゃないから、見るたびに「なんとかしたい」(=捨てて買い替えたい!)と思い、そう思う自分を自己嫌悪する(=勿体無い、後ろめたい)。
そういう心の動きのセットはストレスである。それが日に一度以上は必ず襲う。とはいえ仕事のそれであるとか、対人関係のそれに比べればじつに微細なストレスではある。表立って騒ぎ立てるほどのことではない。でも、これがボディーブローのように、ジワジワと効いて来る。イラッとして、フーとため息をついて、アーアと諦める。「壊れてもないし、まだ使えるし」観念する。こんなつまんないものでも、10年持っちゃうんだな、と。
「見かけ」にこだわるのは罪悪?
どうしてなのだろうか分からない。でも、私たちの感覚の中には、どこか「実用品の見かけにこだわるのは悪いこと」という思いが無いだろうか。「悪い」、というのが強すぎれば、「意味が無い」と言い換えてもいい。あるいは「ぜいたく」でもいい。身の回りにある、あらゆる「モノ」について考えてみて欲しい。ガイドが学生時代に実家を出て、いろいろな生活用品を整えるのにまず向かったのは、近所のホームセンターだった。
ホームセンターもそうだが、スーパー(や、場合によってはデパートのそれであっても)の日用品売り場にある家事用具のほとんどは、「垢抜けない」モノばかりだ。
まず色が変。デザインもこなれない。どこかしら所帯臭いというか、もっさいというか、なんというか……。
でも日用品、実用品に色・デザインなどの洗練を求めるのはもしかしたら間違っているのかも、という気もする。
気に入ったとは到底いえないけれど、必要だししょうがないから、買う。
まあ、価格的にもしょうがなく買える程度にそこそこ安いし、まあ使えはしそうだから、買うのだ。
のちにいろいろな家庭にお邪魔する機会を持ったガイドが、ごく「ふつうの」家庭の台所やらお風呂場やら洗面所、トイレなどで見るのは、およそそうやって「要るものだから」「安かったから」買い集められた日用品の集積である。
台所では、調理道具をはじめとしたモノ、調味料、食品、食器、洗剤……が、色も素材もバラバラのまま並んでいる。
その無節操な色の洪水に拍車をかけるのが市販品の「パッケージ」である。形も色も柄も素材感もバラバラであるうえ、さらには小うるさいPR用の文字や絵がびちびちと踊っている。残念ながらそれぞれ、商品化する上でそれなりに「デザイン」されてはいるのだろうけれど、言ってしまえばセンスもへったくれもない。センスよりも効用やウンチクのPRのほうが大事とされているのだろう。
近年、生活に対する意識の高い……美意識が高い、センスある暮らしをする……人々には当たり前のように取り入れられている「調味料や洗剤の容器を自選して、移し変えの手間を惜しまない」法は確かにこの、モノの無節操な洪水をせきとめるのに有効な方法に違いない。
けれど、もうちょっと手間のかからない方法は無いものか、たとえ「できあい」の「工業製品」のままでも洒落たパッケージの、内容にも問題ない商品は無いものか?
と思って探すとさすがに見つかるのが今日日のネット社会なのである。しかしそんな「できあい」のモノの多くは、何故か判で押したように「ドイツ」を始めとしたヨーロッパ、北欧(「スウェーデン」あたり)製だったりする。
勢い、たとえ消耗品であっても、単価が異様に高くなる。
100円ショップで買えば、それこそ105円で済むものが、うっかりすれば10倍、さらに送料がかかったりする。
果たして「そこまでして」美意識とやらを満足させて、いいものか? 否か。云々……。
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