【今月の住まい本】
台所から戦後が見える
(朝日新聞学芸部 著 発行:朝日新聞社)
/1995年8月5日 第1刷発行 定価1200円
「家の中が片付かない」「特に台所がひどい」「モノが多過ぎる」「でも捨てられない」「ゴチャゴチャして自分でも何がなんだかわからない」「でも捨てられない」……エンドレス。の、ジレンマ。
他人事ではない、と感じる「主婦」は多いだろうこの悩みの根っこをこの本で「見つけた!」と思った。キーワードは『戦後』。
もう遠い遠い歴史の教科書に出てくる史実の一部のような戦争の、影響が戦後すでに2世代を経た私たちにも脈々と、静かに受け継がれている。
*
その時代、豊かさの指標は「モノの数」にあった。憧れの生活は即ち「新製品」の傍らにあった。
焼け野の後にはどんなに狭くても「我が家」の存在自体がすばらしかった……いわゆる「団地のDK(ダイニングキッチン)」の台頭。そこに備えたい台所用品や家電の多くは、それまでの主婦らは見たことも、想像すらできないものばかりだった。新しいモノを知ったが最後、隣家と競い合うように買い求め、それが当たり前になっていった時代。
『戦後』から順を追って考えてみれば、「モノが多過ぎる」状況に至るのは別段不思議ではなかったように思えてくる。でも悲しいキモチにもさせられる。片手鍋では作れない何かのためにフライパンを買い、フライパンではできない何かのために中華なべを買い、中華なべではできないためにオーブンレンジを買い、オーブンではできない何かのために電子レンジを買い……エンドレス? そして台所はカオスと化していく。「でも、システムキッチンにすればすべての悩みは解消する…」
ほんと?
*
かつての「私たち」である、母や母の母、そのまた母の世代の女性達を無知だとか愚かだとか娘たちは批判する。「だからうちは片付かないのよ!」それはとっても容易い。
でも忘れてはいけない。「着物を着て、井戸で水を汲み、毎朝火を熾し、かまどで飯を炊いていた」時代の女性は、たかが50年前には、普通だった。
どんなに豊かになり便利になっても、亡霊のように「ジメジメした土間に張り付いていたかつての女性の記憶」が襲い掛かってくるような気がする。ガス、水道、電気を当然として享受し、様ざまな電化製品を並べそのうえ「家事」を厭うキモチの根っこは、長い長い女性の歴史の中に、深ぁく根付いて、おいそれと枯れそうもなく。
「私たち」は飽かず新しい、憧れの台所を夢見つづけるのだ、多分。
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