■離陸準備完了
コクピットの窓の先にまっすぐに延びる、長さ数千メートルの滑走路。その中心線を正面に見据えて機体は静止しています。
「××便、離陸支障なし」――空港管制塔から離陸許可がおりると、副操縦士はオーバーヘッドパネルにあるスイッチを操作し、離陸を知らせるチャイムをキャビンクルーに送ります。やがて機内に流れる、シートベルト着用を再確認するアナウンス──。
「テイクオフ!」
機長の口から短く発せられたその言葉は、行くぞ、という力強い意思表示です。
■滑走開始
機長はブレーキペダルを踏んだ状態で、4本のスラストレバーを前方に押し出しました。
うなりを上げるエンジン音。回転数が最高回転数の70%程度にまで高まったところで、機長はいったん手を止めます。4基のエンジンが同一推力で安定しているか? EGT(排気ガス温度)は正常か? それらを確認した上で、オートスラストスイッチをONに。
スラストレバーは自動コントロールに切り替わり、あらかじめコンピュータにインプットされた離陸出力へエンジン回転が上昇していきます。同時に、機長が車輪ブレーキを静かに開放すると、機体はゆっくりと、静かに滑走を始めました。
■加速
コクピットに、タイヤが滑走路面を転がるゴツゴツした振動が伝わってきます。
速度が増すにつれ、操縦桿が勝手に手前に動こうとするのは、昇降舵に作用する気流の影響です。機長はそれを押さえるため左手で操縦桿を握り、右手はエンジントラブルなどの事態に備えスラストレバーに添えています。
横で副操縦士も、そのスラストレバーの下の部分を補助的に押さえていますが、彼の目はPFD(プライマリー・フライト・ディスプレイ)の速度計を凝視。機体はぐんぐん滑走スピードを上げ、身体がシートの背もたれにめり込みます。前方の滑走路が勢いよく後方へ流れ、速度は80ノット(時速約148キロ)を突破。
さあ、V1──離陸決心速度が近づいてきました。