日本の空は年々過密になり、毎日必ず雲の上のどこかで時速900キロ(マッハ0.82)同士がすれ違っています。しかし、これまで何度も飛行機を利用しましたが、対向機とすれ違う場面を目撃した経験は残念ながら一度もありません。
もっとも、同じ航空路上を飛行する場合、東に向かう飛行機は1,000フィート単位の奇数高度で、西行きは1,000フィート単位の偶数高度で飛ぶ決まりになっています。だからキャビン(客室)からはなかなか見えないのでしょうし、たとえすぐ下を通過したとしても、本当にアッという間で気がつかないのかも知れません。
元エアラインパイロットの石崎秀夫さんは、自身のフライトの関するエッセイ集『機長のかばん』(講談社+α文庫)の中で「(対向機らしきものが目に止まってから)数秒後には“けし粒”くらいに見えてくる。すると見る見るうちに、秒刻みで膨らんでくる。何とかジェット機に見えたと思った途端に、今度はぐんぐん大きくなって、数秒で目の前一杯にクローズアップしてくる」と書いています。著者はその感じを「怖い」という言葉で表現しているのも印象的でした。
前に取材でお会いした別のパイロットも、前方から飛んでくる飛行機が最初は丸い小さな点に見えると話していました。
翌幅が50メートルもあるジェット機でも、正面から見ると翼は薄い一枚の板で見分けがつきづらく、胴体だけが丸く見えるのでしょう。パイロットの視力(1.0以上であることが義務づけられています)で、個人差もあるでしょうが、だいたい5キロ先まで近づけば対向機を発見できるらしい。そして、それからすれ違うまでがまさにアッという間だそうです。怖い感じ、というのも、分かる気がしますね。
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