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「貯金も家族もない」定年後の現実。70歳の“元部長”、清掃員として汗を流す日々の「希望」とは

さまざまな事情から、肉体労働をするシニア世代は少なくない。今年70歳になる男性は、50代で離婚し、60歳で定年。年金は繰り下げ受給を選択し、この10年間は清掃の仕事を掛け持ちしてきた。シニア層でも格差が広がる現在、彼が描く希望とは。※画像:PIXTA

亀山 早苗

亀山 早苗

人間関係 ガイド

どうして男女は愛し合い、憎み合うのか。日々、取材を重ねつつ男女関係について記事や本に書きつづっている。近年は家族・友人・職場などの人間関係全般や、お金が絡む人間関係のトラブルについても執筆。『くまモン力-人を惹きつける愛と魅力の秘密』など著書多数。

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シニア層の仕事、肉体労働に励むしかない?(画像:PIXTA)
シニア層の仕事、肉体労働に励むしかない?(画像:PIXTA)

定年退職制度をなくす企業がちらほら出てきてはいるが、まだまだ一定の年齢で「社会からリタイア」せざるを得ない状況は続いている。

「人生100年時代」などと煽っておきながら、60歳を越えると過酷な日々が待っていることが多いのだ。もちろん、たっぷり貯蓄をし、老後は何の不安もない人たちもいる。若者だけではなくシニア層も格差が激しくなっている。

大企業以外で定年を迎えた人、個人事業主の自営業などはよほどの準備ができなければ、老後は地獄が待っているかもしれない。

「部長」にまでなったのに

早朝からマンションの清掃員として働いているユウジさんは、今年70歳になる。50代で離婚してから、ずっと独身を貫いてきた。中小企業とはいえ、「部長」まで経験したのだが、60歳で定年となった。

「あと5年働きたかったけど、後進に道を譲れという雰囲気が強くて。居座ることはできませんでした」

大学を出てからしばらくは、アルバイトをしてお金をためては海外旅行をしていた。30歳を過ぎてからやっと就職したため、厚生年金は満額とはならなかった。離婚に際しては、妻が父親から譲り受けた家を追い出され、小さなアパートに移り住んだ。あげく、「少ない」退職金も半分は離婚した妻に「持って行かれた」という。

どん底に突き落とされたような恐怖感

「30代半ばの娘もいますが、結婚して遠方にいます。離婚したのは私の浮気でも借金でもない。『あなたと老後を過ごす気になれない』と、妻に一方的に離婚届を突きつけられたんです。ただ、反論する気にはなれなかった。娘は、親が離婚したのは私のせいだと思っているんです。数年前、私の母が亡くなったとき、娘はお葬式には来てくれましたが、話しかけてもそっぽを向かれました」

家族の縁が薄くなり、親もきょうだいもすでにいないユウジさんにとって、会社と仕事は生きる望みのようなものだった。だが定年後、延長で働く選択肢もないまま、社会と縁が切れた。

「いきなりどん底に突き落とされたような恐怖感がありました。このまま一人で誰とも話さず、誰とも顔を合わせないまま死んでいくかもしれない、と。とにかく仕事を探そうとハローワークへ通いましたね」

ところが、事務職だったユウジさんができるような仕事はなかなか見つからなかった。

清掃の仕事はきついけれど

ビルやマンションの清掃の求人は、よく目についた。いくつか掛け持ちすれば、なんとか暮らしていけるかもしれないと、ユウジさんは決意した。人間関係に煩わされないことも決め手となった。

「朝晩、清掃の仕事に励んできました。私はマンションの清掃が多いんです。夏でも冬でも、非常階段や外周り、エントランスの窓拭きやゴミ置き場などを掃除すると汗が噴き出しますが、運動になると思いながら頑張っていました。70歳から年金を受け取ることにしているので、そうしたらダブルバイトはやめようかなとも考えています」

疲れがたまっても体調がすぐれなくても、ユウジさんはほとんど休んだことがないという。アパートにエアコンはついているが、冬は暖房をつけない。夏も、よほどのことがない限りは首に保冷剤を巻いて過ごしている。

「さすがに今年は3回くらいつけましたね。はたから見たら、たぶん貧乏シニアなんでしょうし、実際にそうだけど、もう慣れてきました。肉体労働はつらいけど、ここを掃除して気持ちよく過ごせる人たちがいるんだと思えば頑張ることはできる」

気持ちまで貧しくならないように

ユウジさんの知人には、カリスマ的な清掃員もいるのだとか。その人が清掃していたマンションでは住民たちが常に「あなたのおかげで快適だ」と褒めてくれ、所属先の会社にも彼の仕事ぶりを賞賛する声が寄せられたという。

「私はそこまでできていませんが、それでもプロの清掃員として自覚をもとうと思うようになりました。人生、浮き沈みはつきものだし、私が離婚されたのも妻にとっていい夫ではなかったから。そんな反省もするようになりました」

さまざまな事情で、清掃などの肉体労働に入ってくるシニアはいるとユウジさんは言う。年金格差もなんとかしてほしいですよと苦笑する。

「私の場合は、年金を満額払っていないし、いろいろな事情も自分が蒔いた種だから仕方がないと思うけど、健康だから助かった側面もあります。たまたま体が弱かったり、私よりもっと複雑な人間関係を抱えている人もいるんじゃないかと思います。この年でお金も家族もないのはつらいけど、日常にほんのささやかな希望をもって生きていきたいなとは思う。気持ちまで貧しくなってはいけないから」

ユウジさんは優しげな笑みを浮かべてそう言った。

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