子育て

小1までに9割開始! そろばん「超・早期化」の波。教育熱心な親が「アナログな学び」に惹かれる理由

「そろばんは小学校から」という常識が変わりつつあります。未就学から始める家庭が増えている背景には、AI時代だからこそ育てたい力や、中学受験を見据えた学びの土台づくりへの期待がありました。

長島 ともこ

長島 ともこ

子育て・PTA情報 ガイド

子育てアドバイザー

二人の子供を持つフリーライター・エディター。出産を機に専業主婦に。母として不安や悩みと向き合ううち、「ママが読んでほっとする情報を発信したい」と、現職に復帰。子育てアドバイザーの資格を取り、育児、教育、PTA、暮らしの分野を中心に執筆を行う。PTA広報委員長を経験し、PTA関連書籍を出版。講演活動も。

...続きを読む

「そろばんを習い始めるなら、小学校に入ってから」――そんなイメージを持っている人は多いのではないでしょうか。ところが近年、その常識が大きく変わっています。

2024年に実施された公益社団法人全国珠算教育連盟の調査では、現役のそろばん教室指導者の85%が「習い始める年齢が低くなっている」と回答。現在、そろばん教室に通っている子どものうち、小学1年生までに始めている割合が99.2%、5歳以下から始めるケースも77.8%に上ります。

さらに、同連盟が東京23区のそろばん教室に通う小学生以下の子どもを持つ親を対象に2024年に実施したアンケート調査によると、中学受験を予定している家庭では、小学1年生までにそろばんを始める割合が88.3%という結果も出ています。

タブレット学習やAIの活用が進む時代に、なぜ今、そろばんなのでしょうか。長年そろばん教育に携わる公益社団法人全国珠算教育連盟理事長の鈴木宗一さんに、その背景を聞きました。

目次

「級を取るため」から「数字に強い子に育てたい」へ

かつて、そろばんは「資格を取るための習い事」でした。昭和の時代は、小学校で九九を習ってから小学3年生頃から習い始め、検定試験で級や段を取得することが大きな目的だったといいます。しかし現在は、その目的が大きく変わりました。

進学や就職で評価されることもあったそろばんの資格ですが、その社会的な価値は以前ほど大きくありません。級や段の取得よりも、子どもの成長につながる学びとして、そろばんを選ぶ家庭が増えています。鈴木さんは、こうした目的の変化を踏まえて、そろばんを始める年齢が低くなっている背景として3つの要因を挙げます。

1つ目は、「数字に親しんでほしい」という保護者の思いです。

「私たちは毎日、数字に囲まれて生活しています。AIや電卓が計算する時代になっても、それは変わりません。だからこそ、小さい頃から数字に親しみ、数字に強くなってほしいという思いが、保護者にはあるんです。計算が速くなること以上に、数字を身近に感じられるようになってほしい、ということですね」(鈴木さん以下同じ)

「始めるなら小学1年前後」が最も身につきやすい

小学3,4年生になると筆算が定着するため、珠算式暗算に抵抗が出てくることも。
小学3,4年生になると筆算が定着するため、珠算式暗算に抵抗が出てくることも

2つ目の要因は、「珠算式暗算」を身につけやすい時期があることです。珠算式暗算とは、頭の中に「そろばんの珠」をイメージし、それを実際に弾くように動かして計算する方法です。鈴木さんによると、このイメージを作りやすいのが小学1年生前後なのだそうです。

「小学3~4年生になると、筆算が定着しています。『5+8=13』など数字だけで考える習慣が身につくため、頭の中でそろばんの珠をイメージすることに抵抗が出てきます。一方、小学1年生頃であれば、珠の動きをそのまま頭の中で再現しやすく、珠算式暗算が自然に身につきやすいのです」

さらに平成中期頃からは、小学1年生前後で珠算式暗算を身につけ、驚くほどの計算力を発揮する子どもが目立つようになったといいます。

「特に優秀な子どもの中には、小学校低学年で最高位の10段を取得する子もいます。4桁×4桁の計算でも、問題を見た瞬間に答えを書き始めるほどです。こうした子どもたちの活躍を通じて、『珠算式暗算は早いうちに始めた方が身につきやすい』という認識が広がった側面もあります」

中学受験家庭がそろばんを選ぶ本当の理由

低年齢化を後押ししている3つ目の要因が、中学受験です。もちろん、そろばんを習うことで計算が速くなることは大きなメリットですが、鈴木さんは「本当の強みはそこではありません」と話します。

「数字の見方が変わるんです」

例えば、普通は「83×76=6308」と考えます。しかしある程度のレベルになると、「かけて6308になる2つの数字は何か」を逆算できるようになるといいます。こうした発想の転換が、柔軟な思考力につながるのです。さらに、1つの方法で解けなければ別の方向から考え、さらに違う視点から試してみる――。そんなふうに、答えにたどり着くまで粘り強く考え続ける姿勢も育まれます。

「答えが出るまで考えることをやめない子が多いですね。真っすぐ考えてだめなら横から、後ろからと、いろいろな角度から考えるようになります。算数だけでなく、ほかの教科にもよい影響があると思います」

こうした思考力が、中学受験で求められる応用力や発想力、瞬発力につながると考える保護者も少なくありません。実際、難関中学校への進学者を多く送り出している教室では、幼児期からそろばんを始め、小学4~5年生頃まで集中的に取り組む子どもが少なくないそうです。難関校に合格した子どもの多くは、少なくとも暗算5段(3桁~4桁の掛け算や割り算を、頭の中で一瞬で解くレベル)程度の力を身につけているといいます。

保護者が驚くのは「計算力」よりも集中力

そろばんを始めるきっかけは計算力でも、多くの保護者が後から驚くのは、別の力だといいます。それが、集中力や精神力です。

「検定試験は15級から10段まで細かくステップアップできる仕組みになっています。合格する成功体験もあれば、不合格になる失敗体験も経験します。それでも次の試験に向けて努力を続ける。その積み重ねが、『最後までやり抜く力』を育てていくのです。そろばんは、ごまかしがきかない世界です。自分の力で乗り越える経験を何度も積めることが、大きな財産になっています」

また、中学受験を機に教室を離れた子どもが、その後再び戻ってくるケースも少なくないといいます。鈴木さんは、「計算力を維持したいというより、そろばんで身についた集中力や物事に向き合う感覚を失いたくないという思いがあるのではないでしょうか」と話します。

早く始めればいいわけではない

一方で、「早く始めれば早いほどいい」というわけではありません。鈴木さんの教室では年長児から受け入れていますが、体験の結果によっては半年~1年待ってもらうこともあるそうです。判断するのは、計算力ではありません。

先生の話を理解できるか。数字を書けるだけの指先の発達があるか。本人が「やりたい」と思っているか。そうした点を総合的に見て判断しています。

「無理に始めて、そろばんが嫌いになってしまうと、数字そのものが嫌いになる可能性があります」

実際には、お兄ちゃんやお姉ちゃんが通う様子を半年ほど見続け、「早くやりたい!」という気持ちが高まってから始めた子の方が、大きく伸びるケースも多いそうです。子どもには、それぞれに「始めどき」があるのです。

AI時代だからこそ、「手を動かす学び」が見直される

AI時代だからこそ「手で動かす学び」が必要。
AI時代だからこそ「手で動かす学び」が必要

学校ではGIGAスクール構想によって、1人1台端末が当たり前になりました。デジタル化が進む今、鈴木さんは、そろばんの価値はむしろ高まっていると考えています。

「一番の違いは、学びの質です。そろばんは、自分の指で珠を動かしながら覚えていきます。体の感覚を使って身につけたことは、しっかり定着しやすいんです」

実際、珠算式暗算を一定レベルまで習得すると、その力は大人になっても失われにくいといいます。

「10歳前後までにしっかり身につければ、60代、70代になっても3桁×3桁の計算を頭の中でできる人はたくさんいます。計算力が体に染み込んでいるんですね」

一方で、日常生活は大きく変わりました。電子決済が普及し、買い物で暗算する機会は減りました。スマートフォンがあれば電話番号を覚える必要もほとんどありません。

「便利になった反面、自分の頭や体を使う場面は少なくなっています。だからこそ、実際に手を動かし、体で覚える経験には大きな価値があると思っています」

もちろん、大切なのは早く始めることではなく、その子に合ったタイミングで始めることです。AI時代だからこそ、数字に親しみ、自分の頭で考える力を育みたい。さらに、中学受験も見据え、幼いうちから学びの土台を築きたい――。未就学からそろばんを始める家庭が増えている背景には、そんな令和の保護者たちの教育観の変化が表れているのかもしれません。

鈴木宗一さん 2013年より公益社団法人全国珠算教育連盟 本部理事を務め、2025年理事長に就任。AI時代における【そろばん教育の再定義】に向け、情熱を傾けている。そろばん業界誌においての執筆活動や全国各地での講演活動など多方面で活動
鈴木宗一さん

話を聞いたのは:鈴木宗一さん 
2013年より公益社団法人全国珠算教育連盟 本部理事を務め、2025年理事長に就任。AI時代における【そろばん教育の再定義】に向け、情熱を傾けている。そろばん業界誌においての執筆活動や全国各地での講演活動など多方面で活動。

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※乳幼児の発育には個人差があります。記事内容は全ての乳幼児への有効性を保証するものではありません。気になる徴候が見られる場合は、自己判断せず、必ず医療機関に相談してください。
  • 1
  • 2
  • 次のページへ

あわせて読みたい

カテゴリー一覧

All Aboutサービス・メディア

All About公式SNS
日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
公式SNS一覧
© All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます