人間関係

「とにかく働かねば」運転代行のアルバイトで事故を起こした70代父。「シニア運転手」たちの苦境

国や自治体が高齢ドライバーの免許返納を推進する一方で、生活が苦しいシニア世代が、定年後に運転手として働く例が増えている。だが、そこには常に事故の危険が伴う。無理を重ねる高齢者の姿は、貧困時代の象徴のように見える。※サムネイル画像:PIXTA

亀山 早苗

亀山 早苗

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どうして男女は愛し合うのか、どうして憎み合うのか。出会わなくていい人と出会ってしまい、うまくいきたい人とうまくいかない……。独身同士の恋愛、結婚、婚外恋愛など、日々、取材を重ねつつ男女関係のことを記事や本に書きつづっている。

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高齢者が運転の仕事に就く背景にあるものとは(画像:PIXTA)
高齢者が運転の仕事に就く背景にあるものとは(画像:PIXTA)

新潟県の高校生らを乗せたマイクロバスが磐越自動車道でガードレールに突っ込み、21人が死傷した事故が起こった。このマイクロバスを運転していたのは、運転を仕事としていない68歳の男性。バスは高校側から依頼を受けたバス事業者が手配したレンタカーで、この運転手は営業担当の「知人の知人」だという。現段階では、運転手については有償ではないということになっているが、捜査はまだ始まったばかり。

今回のように部活動での移動の場合、あまり高額だと保護者の負担が増えるのは目に見えている。だからこそレンタカーということになったのかもしれないが、レンタカーにすることを決めたのは誰なのか、安全面からそれに反対する人はいなかったのかなど疑問点は多々ある。

物価高に収入が追いつかない

「今の日本は本当に貧困だと思います。うちも同じ。部活にかかわる費用はなるべく抑えてもらいたいから、同じような立場だったらマイクロバスでの遠征に賛成してしまうかもしれない。高校生の子どもをもつ親として非常に考えさせられました」

アユミさん(48歳)はそう言う。

国税庁の「令和6年分民間給与実態統計調査」によると、40代前半の年収の中央値は516万円、40代後半の年収の中央値は540万円となっている。

「うちもそんな感じです。私のパート代を含めると世帯収入は600万ちょっと。これで高校生と中学生二人を育てていくのは本当に厳しい。家のローンもあるし、うちは駅から遠いし、子どもたちの習い事や塾の送り迎えで車も必須。私の親世代やその下の世代は、もっと楽に暮らしていたように感じます。やはり物価高に収入が追いついていませんね」

副業で送迎をしていた友人の夫

アユミさんの友人の夫は、二種免許をもっているからと知り合いを送迎するようになった。好意の範囲ということで、送迎に対する報酬ではなく「ガソリン代」「昼食代」などの名目でお金をもらっていたが、ひょんなことから警察につかまったという。

「白タクみたいなものですからね、法律違反になるんでしょう。でも友人の気持ちも分かります。少しでも時間があったら、副業をしてほしい、世帯収入を増やしたい。それが現実ですから」

連休中も、高校生の息子が「友達とみんなでマックに行きたいんだけど」と言いだした。ハンバーガーもセットで頼めば1000円近くかかる時代。ふだんならダメというところだが、友達とみんなで行くのも楽しいんだろうなとお金を渡した。

「代わりに夫と激安スーパーに買い出しに行って、安い豚肉や鶏肉を塊で買いました。これで1カ月は肉を買わずにすむ。必死で働いているのに子どもにハンバーガーを食べさせるのも気後れするなんて、ちょっと世の中、おかしいですよね」

アユミさんは疲れたような表情でそう言った。

父が運転代行業を始めたが

共働きで15歳と12歳、二人の子を育てているトウコさん(47歳)は、地方都市に住む両親をずっと気にしてきた。

「自営業だったから年金が少ないんですよ。もう70代後半になるし、経済的に援助しないといけないなあとは思っていた。でも両親は『大丈夫。うちで食べる分くらいの野菜は作ってるし魚は安いから。それよりあなたたちの方が心配よ』と、昨年はお米を送ってくれました。それに甘えていたんですが……」

昨年の夏に家族で実家に行ってみると、父が夜、出かけていった。何をしているのかと聞いたら、運転代行業を始めたという。とはいえアルバイトだから、収入は少ない。

「生活が苦しいんだとはっきり分かりました。でも親には親の体面というものもあるから、いきなりお金を渡すのも失礼ですしね。うちだって余裕があるわけじゃないから、どうしたらいいんだろうと思っていました」

そんなとき、父が仕事中の運転ミスから軽い事故を起こしてしまった。人身事故ではなく、物損だけだったが父はショックを受けて代行業をやめた。

思い切って終活について話し合ったら

「ついでに免許証も返納してほしかったんですが、車がないと生活すらできないということで……。でもとにかく1度きちんと話さなければいけないと思って、今年のお正月に話し合ってきました。言いづらかったけど、母に終活について話したいと言ったら、本当は私たちも相談したかったのと言ってくれて。財産というほどのものはないけど、今後の生活のめどをどうやって立てるか、今の支出と収入のバランスなど、全て明るみにして話すことができました。夫は金融関係に勤めているので、いろいろアドバイスもしてくれて」

結果、父は安心したようだったという。運転代行をやめたものの、何かして働かなければと焦っていたようだが、そうしなくてもなんとかやっていけると見通しが立ったのだ。

「遠方に住む兄にも話して、あるいは実家に昔からある骨董品を売る算段も立てました。私たちが受け継いでもどうにもならないし、親から何も残してもらわなくていいからと言って」

老いていく親たち世代も、人によっては少ない年金だけでやりくりせざるを得ない。無理を重ねている高齢者たちも多いのではないだろうか。

・参考
・「令和6年分民間給与実態統計調査」(国税庁)

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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