令和10年4月、遺族厚生年金の主な改正ポイント
これまでの遺族厚生年金は、妻に手厚く、夫には厳しい制度設計となっていました。令和10年4月の改正では、この男女差を是正することが大きな目的となっています。
主な見直しは以下の4点です。
- 60歳未満で配偶者と死別した場合、原則「5年の有期給付」に(一定の場合は最長65歳まで延長)
- 有期給付にあった年収850万円の所得制限を撤廃
- 有期給付の年金額を増額(配偶者の老齢厚生年金と同程度に)
- 65歳以降に「死亡分割」が可能(再婚していても請求可)

新ルールの適用対象は男女で異なる
新ルールの対象者は生年月日で決まりますが、その基準は男女で異なります。
- 男性:昭和43年(1968年)4月2日以降生まれ
- 女性:平成元年(1989年)4月2日以降生まれ
一方、以下の人は従来の「旧ルール」が適用されます。
- 令和10年4月時点で60歳以上の人
- すでに遺族厚生年金を受給している人
- 40歳以上の女性
従来の遺族厚生年金(旧ルール)をおさらい
旧ルールのポイントは以下の通りです。
- 女性は30歳以上で夫と死別すれば原則終身受給(30歳未満は5年給付)
- 男性は55歳未満で妻と死別した場合、受給権なし
- 男性は55歳以上で死別しても、60歳まで支給停止
- 男女とも年収850万円以上は受給不可
ケーススタディー:昭和50年4月生まれ・それぞれ年収1000万円夫婦の場合
ここからは、厚生労働省の資料をもとに、令和10年4月以降に遺族年金の受給権が発生したケースを見ていきます。昭和50年4月生まれ・それぞれ年収1000万円夫婦の場合を考えてみましょう。
①妻(昭和50年4月生まれ)が遺された場合
妻は令和10年4月時点で53歳となるため、新ルールの対象外です。つまり「旧ルール」が適用されます。
この場合、最大のポイントは「年収850万円の壁」です。
- 妻の年収が1000万円のため、遺族厚生年金の受給権は発生しない
- 子がいる場合、子のみが高校卒業まで遺族年金を受給
- 子の受給終了後も、妻には年金給付なし
結果として、妻への遺族厚生年金は一生涯ゼロとなる可能性があります。
②夫(昭和50年4月生まれ)が遺された場合
一方、夫は新ルールの対象です。
そのため、
- 年収850万円の所得制限が撤廃される
- 年収1000万円でも「5年有期給付」を受給可能
さらに、
- 子が独立後も5年間の有期給付(増額あり)を受給
- 65歳以降は再婚していても「死亡分割」が利用可能
となり、妻のケースと比べて大きな差が生じます。
同条件でも結果が大きく異なる可能性
同じ年齢・同じ収入・同じ保険料を納めている夫婦であっても、
- 妻が遺された場合:遺族厚生年金はゼロ
- 夫が遺された場合:有期給付+死亡分割あり
という、大きな差が生じる可能性があります。
「激変緩和措置」が新たな不公平を生む可能性
これは、あくまで厚生労働省資料に記載されている範囲で実務が行われ、今後も追加の調整が行われない場合を前提にした見通しです。
資料の記載通りであれば、昭和50年4月生まれ夫婦では、「同じ年齢・同じ高年収・同じ保険料を払ってきた夫婦なのに、妻が遺された場合は子がいても遺族厚生年金がゼロで、夫が遺された場合は子がいてもいなくても遺族厚生年金で手厚く保護される」という、極めて不公平な状況が生じかねません。
背景にあるのは、政府が「令和10年4月時点で40歳以上の専業主婦・パート主婦などの終身年金という既得権を守る」という観点から設けた経過措置です。平成元年4月2日以降生まれという線引きが、結果として「令和10年4月時点で40歳以上の高収入の妻」を新ルールの対象外にしてしまうおそれがあります。
本当の公平を考えるために必要な調整は?
令和10年4月の制度施行まで、まだおよそ2年あります。
例えば、「令和10年4月時点で40歳以上の女性であっても、年収850万円を超える高所得者については男性と同様に新ルールを適用する」といった調整が行われれば、新たな不公平の発生を抑えられるかもしれません。
遺族厚生年金の見直しが、真の意味での男女平等につながる制度改正となるよう、今後の議論を見守りたいところです。
【関連記事】
厚生労働省HP 遺族厚生年金の見直しについて







