
「かわいい」は若い女子たちのキーワード。人からどう見られるかを気にするあまり、自ら率先して「今日は寝不足でブスだから写真撮りたくない」と言ったりもする。大人からみると痛々しい面もあるのだが、それが令和の今を生きる10代女子たちのありようなのだ。
なかなかマスクを外さなかった娘
「うちの娘、最近ようやくマスクをとって学校へ行くようになったんですよ」
少しホッとしたような様子でそう言うのは、ツバキさん(47歳)だ。17歳の娘はコロナ禍以降、マスクを手放せなくなっていた。
「当時は小学5年生で、少しの間、自宅学習となったんですよ。その後、分散登校などがあって修学旅行も中止になった。夏休み以降はオンライン授業が始まって。それから徐々に登校するようになりましたが、誰かが新型コロナにかかるとまた休校になったりもした。2年くらいは娘もかなり情緒不安定になっていた記憶があります」
登校が始まってもマスクは必須。給食もみんな前を向いて黙食だった。娘は帰宅してもマスクをとることはなかった。
「うちはたまたま夫も私も早くからリモートで仕事をしていたし、運がよかったのか2歳下の息子も含めて誰もかからなかったんです。息子はそれほど神経質になっていなかったけど、娘はかなりメンタルがつらそうでした」
中学2年生になったとき、ようやくマスクなし登校が認められたが、「個人の判断」でもあり、娘はマスクをし続けた。
「私、ブスだよね」
「結局、彼女は卒業までマスクをしていたと思う。もうそろそろいいんじゃないのと言ってみたけど『素顔を見られたくない』って。なんだかマスクをしているうちにそういう方向に気持ちがいってしまったんでしょうね」
家ではとるようになっていたが、「私、ブスだよね」とよく言っていた。ツバキさんも夫も、それぞれ娘を外に連れ出し、娘の大好きなパフェを食べながら話をじっくり聞いたこともある。
「10代はただでさえ、自分がかわいいかどうか気にする時代でもありますよね。たまたま親戚に精神科医がいるので聞いてみたんだけど、あまり責めたり急かしたりしない方がいいと言われました。娘を親戚の集まりに連れていって彼がそれとなく話を聞いてくれたんですが、大丈夫だろうということで……」
希望する高校に入学したことで、ようやくマスクを外したという。
素顔への抵抗は強い
それでも娘の「容貌コンプレックス」は治ってはいない。つい先日、娘がスマホの写真を整理していたので、「たまには見せてよ」とツバキさんが見たところ、娘はほとんど手やスマホで顔を隠している。
「顔の半分以上が見えないんですよ。それでも写真には積極的に写ってる。他の子も少し隠してはいましたが、うちの娘が一番顔が見えない。最近はこういうポーズがはやってるんだねとさりげなく言うと『私、顔が大きいんだもん』って。隣の子と比べても、娘の方が小さいくらいなのに」
かわいくないと価値ないよね、と娘がため息をつく。誰かにかわいくないと言われたのかと聞くと、そんな事実はないらしい。加工した写真を送ってくれた友人のコメントには、「かわいくていいなあ」と書かれていた。友人たちの中でも、娘はかわいいと言われていたのだ。
「かわいいって言ってくれてるじゃないと言ったら、『そんなの本音かどうか分からないよ』と。友達を信じないのかと驚きましたが、みんなそれぞれその日の気分で、誰それがかわいいとか今日は自分がかわいくないとか、好きなように言っているみたい。つまりは気にする必要なんてない。でも娘はマスクの時期が長かったから、客観的に自分の顔を見ることはもちろんできないし、やっぱり隠していた方がいいかも、とすぐマスクに頼ろうとする気持ちが抜けないんでしょうね」
“かわいい”という価値観は理解できないが
先日、久しぶりに娘がマスクをして出かけていった。新学期が始まったことによる緊張のためだろう。翌日はしていなかったので、ツバキさんはホッとしたという。
「これから大学生になり、社会人になっていく過程で、彼女が心の澱みたいなものを払拭(ふっしょく)していってくれたらいいなと思っています。今の高校生女子にとって、“かわいい”という価値観がどれほど大きいか、正直言って私には理解できない。私の高校生時代は部活に必死で、かわいいかどうかなんて考えたこともなかったし。そういうことを考えたのは、大学に入って好きな人ができたときだった。でも私の価値観を彼女に押しつけるわけにもいかない」
慎重に見守っていくしかないと、ツバキさんは自分に言い聞かせるようにつぶやいた。







