自社社員の採用に苦戦する転職エージェント
転職エージェントは企業の中途採用支援がメインサービスである。企業が求める人材を紹介し、企業から手数料をもらうビジネスモデルだ。いわば、転職採用のプロフェッショナルといえる。しかし、その転職エージェント会社の中には、実は自社の社員採用に失敗し続けている会社も少なくないのだ。社員が入社してもすぐ辞めてしまう、つまり定着率が低いのだ。
自分たちが苦手なことをメインサービスにしているというのは矛盾しているように思われるが、これもまた現実だ。自社採用に失敗続きなのに転職支援を任せてもいいのか、キャリアの専門家として解説する。
人材の素養と実力を見抜くプロ
転職エージェントに相談して、転職活動をしたことがある人は多いだろう。転職エージェントは複数の求人案件を転職希望者に提供し、転職が実現するまでのサポートをしてくれる。転職エージェントの顧客は中途採用を実現したい求人企業だ。企業側には求める人物像があり、その内容を転職エージェントに伝え、より精度の高い人材の紹介を求める。
転職エージェントは、求人企業の要望に合う人材をセレクトし、企業に提案。書類選考に通れば面接日程などを調整する。その後、複数回の面接を経て最終的に採用に至る。この一連の流れをサポートするのが、転職エージェントの日常である。
ほかにも、求人企業に紹介する人材を選定するために、求職者の転職活動に対する希望(取り組みたい仕事内容や待遇など)をヒアリングしたりもする。
面接は求人企業が行うが、その面接が成功するように面接対策を求職者向けに行うことも、転職エージェントの大切な仕事であり、その面接対策のスキルは転職エージェントによって異なる。
求人企業と求職者の両者のニーズを満たすために、転職エージェントは人材の素養や実力を見抜くプロである必要がある。
なぜ自社の中途採用に失敗するのか
しかし、採用のプロであるはずの転職エージェントが、自社のスタッフの中途採用に失敗続きであることは少なくない。なぜそのようなことが起きるのか。その背景には、いくつかの要因がある。
まず、転職エージェントビジネスはすそ野が広く、供給過多と言われるほど会社の数が多い。ゆえに転職エージェント会社が中途採用をする時、経験者を採用することは至難の業である。当然のことながら、仕事の内容や報酬に満足している転職エージェントほど、頻繁に転職活動はしないからだ。
顧客との人脈を築くことが転職エージェントの重要な仕事だが、会社を変えることで今まで築き上げてきた関係が断ち切れてしまうリスクがある。ゆえに、安定して仕事をしている転職エージェントは、環境を安易に変えようとは思いにくいのだ。
なお、転職エージェントの経験者が転職市場にいないわけではない。転職エージェントの中にも環境を変えたいと考える人はいるし、きっとそれは今いる会社の環境がよくないと思っているからだろう。
ただ、先述したように、顧客とのリレーション構築も大切な転職エージェント業において、会社を何度も変えるのは得策ではない。できれば最初に入った会社で、人脈作りに集中して実績を積み上げていくことが成功への一番の近道である。
しかしそれでも環境を変える人がいるのは、思うような営業成績を出せないからであり、今の会社にとどまれない何か特別な事情があるからだろう。
転職エージェントが自社社員の採用に失敗する主な理由の1つは、パフォーマンスの高い経験者採用が実現しにくいからである。
未経験者歓迎の転職エージェント業界
パフォーマンスが高い転職エージェントが転職市場に少ないことも起因して、転職エージェント業界では、未経験者も積極的に採用している。未経験者採用は、字義通り経験がなくても採用するということだから、一見採用ハードルは低そうに思える。しかし実はとても難しい。転職エージェントが自社社員の採用で失敗する一番の理由はこれだ。
未経験者を採用するには、会社側にしっかりとした教育システムがなければならないわけだが、実際には経験や人材育成ノウハウの蓄積が不十分な企業が少なくないのだ。
なぜ、未経験者を採用する側の土台が整っていないのか。それは、転職エージェントのビジネスモデルがシンプルなことが要因だろう。求人案件を開拓し、それに見合う人材を見つける。求職者には応募するように説得し、求人企業には人材を提案する。マッチングすればそれで成立する。
少々乱暴なまとめ方かもしれないが、単純化すると、これが転職エージェントのビジネスモデルだ。シンプルがゆえに、しっかりとしたトレーニングを受けなくても、人まねをして気軽に始めてしまう企業もある。
参入障壁が比較的低いがゆえに、コミュニケーション能力が高い、営業能力があるなどの、一般的な社会人としての素養を高く評価して、未経験者採用を繰り返してしまう。
ただ、もちろん現実はなかなか厳しく、他業界で営業成績がよかったり、コミュニケーション能力が高かったりしても、転職エージェントとして成果が出せるわけではない。素養のある人材を採用できても、人材育成ができないから採用の失敗につながっているといえる。
その転職エージェントに相談しても大丈夫?
こうした業界事情から、転職エージェントに相談する場合には注意が必要だ。登録されている案件を「ただ紹介するだけ」のエージェントも多く、企業と求職者双方のニーズ・希望を深くヒアリングし、適切なマッチングを行える人材ばかりではない。特に、「とりあえず応募してみてください」「今はこれしかありません」など、希望や意向を無視する対応をするエージェントに注意したい。経験や実績が浅いエージェントである可能性があるため、相手の情報をうのみにせず、自ら情報収集をしたり、相手の説明力・貢献意欲などを確認することが大切だ。
また分からない点や疑問をきちんと説明してくれるか、自分の希望を尊重しながらサポートしてくれるかなども見極めたいところだ。
転職エージェント業界は多様で、能力が高く実績を上げている人も確かに存在する。大切なのは、誰にでも「大当たり」が来るわけではなく、見極めと情報収集が不可欠だということだ。転職エージェント選びで後悔しないためにも、まずは複数のエージェントと接点を持ち、自分の目で信頼できるかどうか吟味したい。
最終的に自分を守る最善の手段は、「納得できるエージェントと出会うまで粘り強く探す」ことだろう。自分の納得できる一歩を歩むためにも、冷静な観察力と主体的な判断が欠かせない。








