実際、お金を貯めたいと思っても、今の生活があり、思うように貯められないという気持ち。また、ある程度の老後資金を貯めても将来の支出を完全に予測することはできません。健康上の問題、思いがけない出費などが発生することもあります。そうなると、「この先は大丈夫?」と不安が顔を出すのは自然なことです。
しかし、本当に大切なのは“足りない”を追いかけ続けることではありません。むしろ、自分にとって「これくらいでちょうどいい」と感じられる暮らしを見つけることではないでしょうか。今回は、そんな“足りない”から抜け出す発想のヒントを探っていきましょう。
「老後が不安……」の正体は、“見えない未来”への戸惑い
公益財団法人 生命保険文化センターが実施した「2022(令和4)年度 生活保障に関する調査」によると、「公的年金だけでは老後の生活に不安がある」と答えた人は79.4%にのぼりました。また、「日常生活に支障が出る」と感じる人が57.3%、「自助努力による準備が不足している」と答えた人が36.3%という結果でした。
年齢を重ねると、体調の変化や働ける時間の制約が増え、現役時代のように自由に収入を得ることが難しくなります。さらに、病気や介護など将来の支出は予測しづらく、「この先どうなるのだろう」という“見えない不安”が心の奥に残ります。
そのため、「もっと貯めなきゃ」「老後までに○○円必要」と考える人が多くなります。ただ、こうした意識は備えとして大切ですが、“足りない”ことに目を向け過ぎると、不安ばかりが膨らんでしまうこともあります。
老後を安心して過ごすために大切なのは、「いくら貯めるか」とあわせて「どんな暮らしをしたいか」。自分にとって心地よい“ちょうどいい暮らし”を描くことが、安心への第一歩です。
「足りない」から抜け出す3つの発想術
老後に「もっとお金が必要」「まだ準備が足りない」と感じるとき、意識したいのは“考え方を少し変えること”です。ここでは、心を軽くし、安心を育てる3つの発想を紹介します。●自分にとっての“ちょうどいい”を見つける
まずは、「どんな暮らしができたら安心か」を、自分の言葉で描いてみましょう。
例えば、「月20万円あれば安心」「毎年1回旅行できたら満足」「庭づくりや読書を楽しむ時間がほしい」など。
実際に、ある60代の方は「65歳までは年に1度は旅行を楽しみたい」「それ以降は、晴れた日は畑を耕し、雨の日は本を読む暮らしが理想」と話していました。
こうした“自分軸の基準”を持つと、他人と比べて「まだ足りない」と焦る気持ちが和らぎます。満足のラインは人それぞれ。自分が安心できる暮らしの形を言葉にすることが、最初の一歩です。
●お金だけに頼らない“豊かさ”を育てる
老後の安心は、お金の多さだけで決まるものではありません。心や暮らしの支えとなるのは、健康・人とのつながり・好きなことを続ける時間といった“お金以外の資産”です。
例えば、近所に散歩仲間がいる、地域のサークルやボランティアに参加している、趣味を通じて交流がある。そうした関係があるだけで、気持ちは前向きになり、「お金をうまく回そう!」と思える心のゆとりが生まれます。お金は大事ですが、人とのつながりや楽しみを持つことでの心の豊さも大切にしましょう。
●“足りない”をヒントに変える
「もっとお金があれば」「もう少し余裕があれば」と思う気持ちは、実はよりよく生きたいという前向きなサインです。
例えば、「旅行に行きたいけれど費用が不安」と感じたら、格安ツアーや日帰り旅行を探してみる。「健康が心配」と思ったら、今できる運動や食事の工夫から始めてみる。
“足りない”と感じるたびに、「では、今の自分にできる工夫は?」と問い直すことで、現実が少しずつ動き出します。完璧でなくても、小さな改善の積み重ねが“ちょうどいい暮らし”につながるのです。