実際、貯金を積み上げてきたとしても、老後の豊かさは“お金の多さ”だけで決まるものではありません。今回は、金融調査のデータや実例をもとに、60代で気付く“お金以上に大切な3つのこと”をお伝えします。
60代(単身世帯)の資産の実態は?
金融経済教育推進機構の「家計の金融行動に関する世論調査2024年」によると、60代単身世帯で最も多いのは「金融資産ゼロ(27.7%)」。一方で、「3000万円以上」保有している人は「16.8%」という結果に。この調査の金融資産には、預貯金以外に株式や投資信託、生命保険などが含まれています。また、日常的な出し入れ・引き落としに使用される普通預金の残高は含まれていません。
平均額は「1679万円」ですが、中央値(データを小さい順に並べたときにちょうど真ん中にくる値)は「350万円」と大きな開きがあります。実際は、資産の保有状況には幅があり、人によって大きな差があることが分かります。
こうした数字を見ると、「お金が多い人ほど安心で幸せそう」と思いがちですが、実際の生活満足度は、必ずしも貯蓄額の多さに比例するわけではありません。
60歳で会社を定年したA子さんの“落とし穴”とは?
筆者の知人、A子さん(独身・60代)もその1人。若い頃から倹約を徹底し、外食も旅行などの遊びも最小限にしてきました。その結果、定年時には3000万円を超える貯金を達成。周囲からは「老後は安心ね」とうらやましがられていました。ところが、いざ退職してみると、何をしていいか分からず、「旅行はお金がかかるから」と消極的に過ごすように。経済的な不安はないのに、どこか心が満たされない様子でした。
お金を「貯める力」はあっても、「使う力」や「楽しむ力」が育っていないと、せっかくのセカンドライフが味気ないものになってしまいます。
そんなA子さんの姿から、「お金以上に大切な備え」の必要性をあらためて感じました。
定年前に備えたい「お金以上に大切な3つのこと」
お金を貯めることも大切ですが、それだけでは“安心”は得られません。心豊かなリタイア生活を送るために、現役時代から意識しておきたい3つの備えがあります。●「やりたいこと」を明確にする
リタイア後は時間が増える分、目的を見失いやすくなる時期でもあります。現役のうちから「興味があること」「試してみたいこと」を少しずつ行動に移しておくと、退職後に“生きがいの種”を見つけやすくなります。
例えば、語学や資格取得、絵画や音楽などの創作活動、地域ボランティアなど。小さな体験を積み重ねていくことで、定年後の暮らしに「自分らしい軸」が生まれます。
●「人とのつながり」を育てる
A子さんのように、現役時代の人間関係が「職場だけ」に限られていると、定年後に人とのつながりが一気に減ってしまうことがあります。
そうならないためにも、地域サークルや市民講座、オンラインのコミュニティーなど、立場を超えて関われる場を持つことが大切です。日常のちょっとした会話や支え合いが、心を豊かにしてくれます。助け合える関係は、お金では得られない“心の資産”です。
●「お金を使う力」を養う
長年の節約習慣から「使わないことが当たり前」になっている人は、いざ使おうとしても「減るのが怖い」と感じてしまうことがあります。
老後資金は「減らさないため」ではなく、「安心して使うため」にあるもの。例えば「月に1万円は自分の楽しみのために使う」と決めてみましょう。旅行や趣味、体験講座など、自分の満足を生むお金の使い方こそ、豊かな老後をつくります。
お金と心のバランスを整えたことで自分らしい人生に!
A子さんは今、週3日だけ近所でパートをしながら、6歳の保護犬と暮らしています。「猫も好きだけど、犬は毎日散歩ができるからね。でも、犬って意外とお金がかかるのよ。節約もしなくちゃ」と笑うA子さん。かつては「何をしていいか分からない」と口にしていた彼女ですが、今では暮らしの中で上手にお金を使い、楽しむ姿が印象的です。
節約モードは健在ながらも、以前のような不安はなく、表情はとても晴れやかでした。
“貯める”だけでなく、“使う”“関わる”“楽しむ”。お金と心のバランスを整えたことで、A子さんの毎日は、ようやく自分らしいものになりました。
老後の幸せは、貯金額の多さではなく、「どう使い、どう生きるか」を自分で描けるかどうか。その視点を持つことが、60代からの人生を豊かにする鍵です。