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2025年5月30日に可決された年金制度改正法案の1つに、2028年度からの遺族年金制度の変更があります。本記事では、遺族厚生年金・遺族基礎年金それぞれの支給要件や給付内容について、影響を受ける人・受けない人を分かりやすく解説します。
遺族年金には遺族基礎年金と遺族厚生年金の2種類があります
遺族年金とは、国民年金や厚生年金の加入者が亡くなったとき、その方に生計を維持されていた遺族が受け取れる年金です。遺族年金には、「遺族基礎年金」「遺族厚生年金」の2つがあり、亡くなった方の年金の加入状況によって、いずれかまたは両方の年金が支給されます。
・遺族基礎年金
国民年金に加入していた人が亡くなったときに、18歳未満の子ども(または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある子ども)やその親に支給されます。
・遺族厚生年金
厚生年金に加入していた人が亡くなったときに、配偶者や子ども、場合によっては親などに支給されます。
今回の制度改正では、それぞれに関して見直しが行われ、2028年4月から段階的に実施されることになりました。
遺族厚生年金の変更点とは?影響を受けるのは誰?
これまで、遺族厚生年金の支給には年代や性別によって不公平がありました。例えば、子どもがいない夫婦の場合、夫が亡くなった際に妻が30歳未満であれば給付期間は5年間に限られていたのに対し、妻が30歳以上であれば年金が生涯支給されるという違いがありました。また、妻が亡くなった場合、55歳未満の夫には子どもがいないと年金が支給されない仕組みとなっていました。
今回の改正では、性別に関係なく60歳未満の配偶者については原則として5年間の有期給付となり、男女差や年代による不公平が解消されます。これにより、これまで対象外だった子どものいない若い男性配偶者にも遺族厚生年金が支給されるようになります。 また、次のような措置も導入されます。
- 低所得者・障害者など配慮が必要な場合は5年目以降も給付を継続
- 有期給付への上乗せ制度(有期給付加算)の導入
- 亡くなった方の年金記録を分割し、遺族の厚生年金に上乗せする制度(死亡分割制度)
- 年収要件(850万円未満)の廃止
- 中高齢寡婦加算(女性のみ)の段階的廃止(20年かけて)
つまり改正の影響を受けるのは、2028年4月以降に配偶者を亡くす、「60歳未満で子ども(18歳未満)を持たない夫・妻」や現制度では遺族厚生年金の対象でなかった「55歳未満の夫(改正により新たに対象)」、対象ではあったが「支給が60歳からとなる55歳以上の夫」「高年収(850万円以上)の方」などと言えるでしょう。
遺族厚生年金の変更で影響を受けないのは誰?
次のような方は、今回の改正による影響を受けません。- 既に遺族厚生年金を受け取っている方
- 配偶者死亡時に60歳以上である方
- 18歳未満の子どもがいる方
- 改正時に40歳以上の女性(中高齢寡婦加算の段階的廃止の対象外)
つまり、現在の高齢層や子育て中の世帯には、影響がないと考えてよいでしょう。
遺族基礎年金の変更点とは?具体的には誰が年金を受けられるようになる?
遺族基礎年金については、これまで親の状況などによって本来なら受け取れるはずの子どもが年金を受け取れないケースがありましたが、改正により子どもを養育する人の状況によらず、子どもが遺族基礎年金を受給できるようになります。具体的には、次のようなケースが新たに支給対象となります。
- 母親が再婚したため母に年金が支給されなくなったが、子どもは母と生活している
- 母親が高年収(850万円以上)のため支給対象外だが、子どもは母と生活している
- 離婚後、父親に養育されていたが、父が亡くなり母親に引き取られた場合
- 祖父母などと養子縁組をして一緒に暮らしている場合
まとめ
2028年度から始まる遺族年金制度の見直しでは、男女平等の観点から遺族厚生年金・遺族基礎年金それぞれについて支給要件の改正が行われます。主な変更点をまとめると以下のとおりです。
遺族厚生年金
- 子どものいない60歳未満の配偶者(男女問わず)は5年間の有期給付となる
- 低所得者・障害者など配慮が必要な場合は5年目以降も給付を継続
- 有期給付加算や死亡分割制度の導入
- 年収要件(850万円未満)の撤廃
遺族基礎年金
- 養育する大人の状況によらず、18歳未満の子ども(または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある子ども)が受け取れるよう要件を緩和
公的年金制度は、これまでも数多くの改正が行われており、非常に複雑な仕組みとなっています。ご自身がどのような制度に該当するのか、また老後や配偶者の死亡といったライフイベント時にどのような給付が受けられるのかについては、ファイナンシャルプランナーなどの専門家に一度相談されることをおすすめします。