一見ただの「マナー違反」のように見える足を広げた座り方ですが、なぜそのような行動を取るのかを考えてみることが、不快感を減らす一助になるかもしれません。
本記事では、大股座りをしてしまう人の心理について、いくつかのタイプに分類しながら考察します。さらに、満員電車という空間で不快感を減らす対処法をご紹介します。
<目次>
気付いていないだけ? 無意識に場所を取ってしまうタイプ
大股で座っている人の中でも、筆者が一番多いと考えるのは「自分が場所を取り過ぎていることに気付いていないタイプ」です。普段から大股で座る癖がある人は、意識せずともその姿勢になってしまっている可能性があります。特に男性は骨格の構造上、自然に足が開きやすいともいわれており、足を閉じる姿勢が窮屈に感じる人もいます。
また、無意識に大股で座っている人は「ボディ・アウェアネス(身体意識)」が低い傾向にあるとも言えます。
ボディ・アウェアネスとは、自分の身体が今どのような状態にあるのか、どれだけ空間を使っているのかといった感覚への気付きのことです。
例えば、会議中に「今ちょっと猫背かも」と姿勢を直す、緊張しているときに「呼吸が浅いな」と感じて深呼吸をするなどを思い浮かべると分かりやすいでしょう。このように“自発的な調整”ができるのが、ボディ・アウェアネスが高い人の特徴です。
逆に、自分の身体の状態にあまり注意が向かない人(ボディ・アウェアネスが低い人)は、「どれだけ足を広げているか」に気付きにくいのです。当然、「他人がどれだけ窮屈に感じているか」を想像することも難しくなります。
パーソナルスペースを守りたい! 防衛的なタイプ
次に考えられるのが、自分だけの空間を守りたい気持ちが強い、防衛的なタイプです。電車のような公共空間は、しばしば「パーソナルスペース(これ以上は入ってきてほしくないと感じる空間)」を侵されやすい環境です。心理学では、私たちは状況に応じて他者との距離感を本能的に調整しようとする傾向があるとされています。
「足を広げて座る」行動は、無意識に「これ以上近づかないで」というメッセージを発している可能性があります。周りが迷惑だと感じる座り方も、本人にとっては自分のテリトリーを守ろうとして無意識に出てしまった行動かもしれません。電車内が混雑しているほど、こうした無意識の防衛行動が出やすくなることも考えられます。
大股で座る行為は「心理的に余裕がない状態のサイン」と解釈することもできそうです。
「他人の目」を意識しないタイプ
3つ目は、他人の目を気にしないタイプです。社会心理学では、人は「誰かに見られている」と感じるだけで行動が変わることが知られています。例えば、監視カメラのダミーがあるだけでゴミのポイ捨てが減ったり、目のイラストがあると募金額が増えたりするという研究もあります。それに対して、電車内で足を広げて座っている人は、「自分が見られている」「迷惑をかけている」という意識が希薄だと言えるでしょう。
このタイプの人は、足が隣の席にまではみ出していても「個人の自由だ」「ちょっとくらい大丈夫」と思ってしまう、あるいは人の迷惑など気にしていないのかもしれません。
他人の目を気にし過ぎるのもストレスですが、気にしなさ過ぎるのも問題になる典型的な例と言えるでしょう。
どうすればイラッとしないで済む? 「大股マン」への対処法
座り方を注意してトラブルになるのは面倒です。かといってモヤモヤしたままというのも納得しがたい、「大股マン」問題。実際に隣に座られて迷惑だと感じたとき、どうすれば自分のストレスを減らせるでしょうか。・まずは「気付いていないだけかも」と捉える
腹を立てる前に、まず「この人、気付いていないだけかも」と考えてみてください。許せない気持ちがあるとき「もしかすると〇〇かもしれない」と、自分の捉え方を再構成してみるのは気持ちを落ち着けるいい方法です。
許すことは心身にもよい影響を及ぼすという先行研究もありますので、いい方向に捉えるというトレーニングのつもりでやってみるのは、自分のためにもなります。
・認知のゆがみがあることを意識する
社会心理学に、基本的な帰属の誤り(Fundamental Attribution Error)という概念があります。例えば、誰かが転んだとき、皆さんは何が原因だと考えるでしょうか。
実は「あの人はドジだから」「年だから」など、原因を考えるとき、“個人の能力や特性”などにフォーカスしやすい傾向があります。実際には、つまずきやすい傾斜になっていたのかもしれませんが、状況よりも先に、個人の特性などが頭に浮かびやすいのです。
また面白いことに自分のことだと逆の現象が起きます。何かミスをしたときに「タイミングが悪かった」「メンバーが悪かった」など、自分の能力不足よりも状況に焦点を当てがちです。
大股で座っている人を見ると、つい人柄に問題があるとか、いつも問題行動をしている人のように捉えてしまいがちです。ただ、もしかすると朝まで看病をしていた疲れが出てしまって、座り方にまで気が回らないだけかもしれません。
このように考えるだけでも、少しモヤモヤを減らせるはずですので、人間関係を円滑にするトレーニングだと思ってやってみてください。
・気付いていないだけの相手なら「視線」も有効
もし大股で座っている人が、気付いていないだけのタイプなら「視線」を活用してみるといいでしょう。
先述した通り、人は「誰かに見られている」と感じるだけで行動が変わることが知られています。中には他人の目を気にしないという人もいますが、そうでない人の場合、相手の足元をちらっと見るだけでも、座り方を直してくれる可能性があります。
また古典的な方法ですが、「せき払い」との合わせ技も効果が期待できます。「ここ、狭いですよ」と無言で伝える方法としてやってみてもいいかもしれません。
・それでも変わらない場合は?
それでも態度が変わらない相手には、「ああ、この人は防衛本能的にこうしているのかもな」「気持ちに余裕がない状況で、自分のスペースを必死に守っているのかも」と、考えてみてはどうでしょうか。
「マナー違反をする人=悪い人」と一刀両断にしてしまうより、「この行動には何か理由があるのかもしれない」と考えることで、自分の感情を少しコントロールしやすくなる可能性もあります。
自分に降りかかる事象は変えられないケースも多いですが、受け止め方を変えるのは自分次第で可能です。柔軟な受け止め方の練習をしておくことは、自分の幸福度を上げることにプラスになるはずです。
背景を想像しながら、自分のストレスを減らす方法を身に付ける
公共空間でのマナー違反は、もちろん避けるべきものです。ただ、「なぜそのような行動をしてしまうのか?」と一歩踏み込んで考えると、そこには人間の無意識な心理や防衛反応が見えてきます。
大切なのは、「相手の背景を想像しながらも、自分のストレスを減らす方法を持っておく」こと。社会は、いろいろな人がいることで成り立っています。マナー違反に直面したときこそ、自分の心の持ちようを育てるチャンスかもしれません。
<参考>
日本民営鉄道協会「2024年度 駅と電車内のマナーに関するアンケート」