魂は人のために使いなさい
生涯を描いた「オードリー リアル・ストーリー」(アルファベータ)の中でもユニセフでの活動が詳細に紹介されています。 |
前ページのアンジェリーナとは、がらりと変わって、こちらは、オードリー・ヘップバーンの言葉。最後に出演した「オールウェイズ」(監督・スティーブン・スピルバーグ)での台詞です。
そして、これはユニセフ(国際連合児童基金)親善大使として世界中を駆け回っていた晩年のオードリーを象徴するかのような言葉に思えます。
オードリーは、森林火災の消火活動中に命を落としたリチャード・ドレイファス演じる消防士が天国で出会う天使役でした。自分が死んだことを受け入れることのできない消防士を、優しくつつみ、現世へ戻らせるときにかけたのがこの言葉です。オードリーの女優としての最後の台詞ともなりました。
神々しいまでの笑顔を振りまいたオードリー
1988年、ユニセフの親善大使に任命されたオードリー最初の訪問地は、飢餓に苦しむエチオピア北部でした。それ以来、1992年秋のソマリアまで30数カ国を訪問しています。どこへ行くにも入念に現地の資料を読み、不明点は自分で調べていたほど熱心でした。訪問後は、先進各国に自ら足を運び、数百回を超える基金援助を募る会に出席し、自分の言葉で支援国の窮状を訴えました。世界中の子どもたちが平和に健康に暮らせるために活動するユニセフ。オードリー自身も第二次世界大戦後、ユニセフの支援を受けたことが親善大使になったきっかけの1つだともいわれています。©UNICEF/HQ05-1585/Giacomo Pirozzi |
この数年前、オードリーは過酷だったといわれる第二次大戦中の体験を問われて、こう答えました。
「あまりにも悲惨なことを目にしてきましたが、その経験から自分は楽観主義であって、悲観主義ではないことがわかりました。だから、何が嫌かといえば、死んだときに過去を惨めに振り返ることです。悪いことしか思い出さず、嘆くのだけは嫌です。」
死を迎えるその瞬間「良い人生だった」と振り返るために、晩年も輝き続ける場としてオードリーが選んだのが、ユニセフの活動に身を投じ、魂を飢餓や貧困に苦しむ子どもたちを癒すために使うことでした。1993年にガンで亡くなる直前まで、ユニセフの活動で奔走し、飢えに苦しむ子どもたちに見せた笑顔は、神々しいまでだったと評されています。
徹底した現場主義
アンジェリーナとオードリー。女優としては対照的な2人ですが、途上国の現状に真摯に向き合い、自分の名前を喜んで貸そうという姿勢は驚くほど共通しています。そしてもう1つ、親善大使としての活動ぶりに共通しているのは、徹底的に現場主義であることでしょう。“親善大使”と聞くと、現地で撮影したPR用の写真と用意された原稿を読むだけの広報役のイメージを持つ人も多いかもしれません。そういう著名人もいるであろうことは否定しませんが、この2人の場合は違いました。
積極的に訪問国へ出向き、その目で現地の状況を見て、自らの言葉でそれを伝えたからこそ、世界中に支援を呼びかけるのに大きな役割を果たしたのです。それが、多くの人の共感を得て、支援国へ世界中の関心を呼んだことにつながっています。