特に機械的暗記は苦手というお子さんに、最近の脳科学の知見を活かした効果的な記憶法をまとめます。
海馬のシータリズムにのる
記憶の中枢といわれている側頭葉の「海馬」には記憶に適した脳波のシータリズムがあります。このリズムが生じている時に記憶したことは忘れにくいそうです。そのためには「対象に興味を持つ」ことが大切です。いやいや覚えようとしても効果が薄いので、お子さんにいかに興味を持たせるかがポイントです。親が子どものテキストを見て「それ面白そうだね。」と学習の対象が味気ないものでないと、気づかせることができれば効果が上がるはずです。
扁桃体を働かせる
やる気の素とも言われている扁桃体が働いている時の記憶は、後々まで強く残ることが分かっています。ではどのようにすれば扁桃体を働かせることができるのでしょうか。それには「ストレスを減らす」ことが一番です。ということは「明日までにこれを覚えなくちゃ」などと焦ると記憶力が活かせないことになります。余裕を持って取り組むことで、記憶した事柄を長く保持することができます。
声に出す
人間は視覚が特に発達していますが、実は聴覚の方が進化の過程で使われてきた期間が長いため、より記憶に残り易いそうです。文字の発明以前は口伝えで歴史を伝承して来たのはそのためです。そこで暗記する時には、目で文字を追うだけではなく同時に口に出してみることです。その分より記憶が強化されます。
エピソード記憶にする
以前意味記憶とエピソード記憶についてメルマガで触れました。例えば「レモン=酸っぱい」という抽象的な記憶が意味記憶で、「マラソン大会で完走した後口にしたレモンの味が忘れられない。」というのがエピソード記憶です。エピソード記憶は意味記憶よりも遙かに強固な記憶です。そこで暗記学習も意味記憶をエピソード記憶に変えて覚えるのです。例えば学習内容を誰かに説明するのです。すると、記憶の内容と共にその時の情景が一緒に脳に蓄えられて、それをきっかけとして内容を思い出す可能性が高まります。
エビングハウスの忘却曲線を利用する
記憶の時間的低減を表す「エビングハウスの忘却曲線」というものがあります。記憶した内容が時間的経過と共にどの程度残っているかを表したものです。それによると機械的に暗記した内容はは4時間を過ぎると大部分失われてしまいます。そこで、もし一夜漬けをするなら朝、試験前に暗記した方が効果があります。
また記憶の干渉を防ぐため、覚え切れないものは切り捨てることが必要です。つまり手に負えないほど沢山覚えようとせず、絞り込んだものだけを記憶した方が虻蜂取らずにならずに済みます。
時間的余裕がある場合は、暗記学習をしたら最初の復習は一ヶ月以内にします。理想的には1週間後、2度目の復習は最初の復習から2週間後、3度目はさらにその一ヶ月後に行うと、かなりの効果を上げることができます。
最初の暗記学習で急激に忘れた内容も、実は潜在的には脳に保持されています。その有効期限が約1ヶ月とのことです。復習時にはその潜在記憶が有効に作用して、より忘れにくくなるそうなのです。
記憶後6時間は寝る
記憶を定着するためには「睡眠」が必要だということが分かってきました。一夜漬けで学習した内容をすぐ忘れてしまうのは、睡眠をとらないためです。記憶後6時間眠ることで一夜漬けの記憶がもう少し長く保持されます。手続き記憶を利用する
手続き記憶というのはテレビやステレオの操作方法や自動車の運転など、様々なパターンを身につけて自動的にこなせるようになったものです。これはかなり強固な記憶で忘れにくいものです。学習に応用するには、例えば方程式の解き方など学習過程が手順化されているものを、繰り返し練習を重ねることで、深く考えなくても解けるようになることに相当するのではないでしょうか。
そう言えば私も高校生の時分に、数学の試験に出た、ある公式を忘れてしまっていました。しかしその導き方が授業で印象に残っていたために、その場で公式を導出して問題を解いたことがあります。手順を覚えていたために必要な公式を忘れてもなんとかなったのです。
以上の中には従来から言われてきた記憶法が含まれています。それらの方法には意味があったということが、脳科学の進歩で裏付けられたわけです。これからは科学的な知見を活かして、できるだけ無駄のない学習をしたいものです。
【参考文献】
記憶力を強くする―最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え方