特に10代については、多感な時期であり、社会経験も未熟であることから、SNSの影響が深刻です。SNSで起きた誹謗中傷のために自らの命を絶つ若者や、危険な人物と出会って「闇バイト」に手を染める若者もいます。SNSにまつわる問題は、日本だけでなく、世界中で社会課題の1つとなっています。
海外で広がる、SNS利用年齢の規制強化
そんな中、アメリカのフロリダ州では2024年3月、14歳未満のSNSアカウント取得を禁止する法律が制定されました。14~15歳の子どもがアカウントを取得する場合は、親の許可が必要になったのです。日本経済新聞は、フロリダをはじめ「全米50州のうち35州が規制など子供の保護策の導入に乗り出す」と報じています。こうした利用年齢規制強化の動きについては、アメリカの状況が深刻であることも大きいでしょう。
国立青少年教育振興機構が2024年7月に発表した『高校生のSNSの利用に関する調査報告書 -日本・米国・中国・韓国の比較-』によると、米国は平日、休日ともに1日当たりの利用時間を「5時間以上」と答えている人が20%を超えています。
また、SNSの利用による精神状態の変化についても、物事に集中できない・眠れない・イライラするなどの状態が「よくある」「ときどきある」と回答をした人は4カ国中トップになっており、保護者としても見過ごせない状況に陥っています。
SNSの利用年齢制限に向けて動いているのは、アメリカだけではありません。オーストラリアのアンソニー・アルバニージー首相は、2024年11月、16歳未満の子どものSNS利用を禁止する法案を年内に提出すると発表しました。違反した場合の子どもと親への罰則は設けられませんが、事業者への罰則は科せられる予定です。同首相は、「SNSが子どもたちをリアルな友達や体験から遠ざけている」と述べ、屋外での遊びやスポーツへの参加を促進する考えを明らかにしています。
Instagramが「ティーンアカウント」を導入。日本では2025年1月から
逆風の中、SNSを提供する企業も10代を守る取り組みを強化しています。Metaが運営するInstagramは、2024年9月に「ティーンアカウント」を導入することを発表しました。ティーンアカウントとは、10代の利用者を守るための機能が設定されたアカウント。公開範囲はデフォルトで「非公開」になっており、メッセージを受け取れる相手や不適切なコンテンツが制限されるなどの保護機能が備わっています。
13~17歳のユーザーは自動的にティーンアカウントに設定され、16歳未満の利用者が設定を変更する場合は保護者の許可が必要になります。米国などの国ではすでに提供を開始しており、日本は来年1月から利用できるようになります。
利用年齢制限の効果は? 考えられるメリットとデメリット
SNSの利用年齢については、Instagramを含むほとんどのサービスが「13歳以上」と定めています。これはアメリカの「児童オンラインプライバシー保護法(COPPA)」に基づいた年齢ですが、今回のフロリダ州の条例はさらに厳しく、13歳での利用を禁じました。子どもそれぞれに個性があり、年齢だけで「13歳はダメだが、14歳ならば適切にSNSを使える」などと判断することはできません。したがって、この条例の効果も未知数です。しかし、10代にとってSNSはリアルな友達との交流に使うことも多いツールですから、親の許可を取らねばならない状況になれば利用を諦め、別の手段で繋がろうとする人も多そうです。
一方、年齢制限をすることで、年齢を偽って登録し、秘密裏に利用する子どもが増える危険性もあります。そうなると、トラブルに発展しても大人に相談しにくい状況が生まれてしまうかもしれません。
日本におけるSNS利用年齢の制限は?
日本の10代によく使われるSNSとしては、LINE、Instagram、Xなどが挙げられます。LINEセーフティセンターの「保護者・教育関係者の皆さんへ」によると、LINEの利用推奨年齢は12歳以上とされているものの、『12歳未満の利用を禁止するものではありませんが、ご家庭で十分に話し合い、保護者の許可を得てご利用ください』と説明されています。
Instagramについては、登録している年齢が13歳未満の場合、アカウントが削除されます。Xについては13歳未満の場合、アカウントがロックされ、再度有効にするには保護者の同意を得る必要があります。
LINEの利用率がもっとも高いため、企業側にさらなる対策を講じてほしいところですが、家族の連絡ツールとしても使われていることや、メッセージ中心の利用ということで10代への影響は少ないかもしれません。ただ、LINEには匿名でやりとりできる「オープンチャット」やショートムービー「VOOM」などの機能もあるため、家庭での見守りが重要ということになります。
国内での法整備については、2020年に施行された「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例」(ゲーム条例)が記憶に新しいところです。「ゲームは1日60分まで」などと定められた本条例は、住民から「違憲である」と訴訟を起こされる事態となりましたが、2022年8月に合憲として請求を棄却されました。ただしこの条例についてはさまざまな意見があり、ネットやゲームについて条例で禁ずることの難しさを感じます。
こうした事例があるため、今のところ国内でSNSの年齢制限を引き下げる法整備には至らないかもしれません。また、前述の『高校生のSNSの利用に関する調査報告書 -日本・米国・中国・韓国の比較-』を見ると、日本のSNS利用についてのトラブルは他国よりもおおむね低い傾向にあります。今のうちにSNSの上手な使い方を子ども達に教えることでITリテラシーを高め、深刻な状況に陥らないようにする手だてはあるはずです。 10代のSNSは悪影響ばかりではありません。「勉強垢(勉強アカウント)」同士で繋がり、励まし合いながら勉強したり、家族や友人の悩みを相談して救われたりすることもあります。どちらも、リアルな友人には話しにくいけれど、ネットを通じた関係性なら可能になる場合もある例です。子どもがSNSをポジティブに活用できるよう、大人がさまざまな面から取り組む必要があります。