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「プールの水出しっぱなし」は先生が弁償するべき? ヒューマンエラーによる賠償責任のあり方を考える

学校のプールの水を止め忘れて損害を発生させたとして、教諭らが賠償を申し出るケース。個人的に弁償させるのが妥当か否か、毎度議論になってもいます。公共と民間の立場の違いも踏まえつつ、この手の問題のあるべき対処について考えます。

大関 暁夫

執筆者:大関 暁夫

組織マネジメントガイド

プールの水道閉め忘れなど“ヒューマンエラーの損害”は誰が賠償するべきか?

教員がプールの水を止め忘れたことによって発生した損害を校長が賠償すると申し出た

先日、東京都江戸川区の小学校で、教員が誤ってプールの水を出しっぱなしにしてしまい、水道代金約50万円を責任者である学校長が賠償を申し出たことが話題になりました。

昨年にも、川崎市立の小学校でプールの水を5日間出しっぱなしにした教諭らに市教育委員会が約95万円を賠償請求し支払われた例もあり、この手の問題は損害を個人負担させることが妥当であるのか否か、毎度議論になってもいます。公共と民間の立場の違いも踏まえつつ、この手の問題のあるべき対処について考えてみます。
 

問題は“公立学校”での事故という点

一般に不祥事における賠償責任は、まず真っ先にその発生が「意図的であったか否か」が問われます。「意図的であった」場合には、ほぼ無条件でその当事者に賠償責任が生じると考えていいでしょう。

問題は「意図的でなかった」場合、重過失であるか否かということが、賠償責任が生じるかどうかのひとつの判断基準になると考えられます。例えば、幼稚園児の送迎バス置き去り事故などのケースでは、事故関係者の職務遂行上で絶対にあってはならない過失であるという観点から、賠償責任は当然に生じるわけです。
 
では、学校のプールの水を出しっぱなしにしたということが教師の職務遂行上の重過失になり得るか否かですが、教師のあるべき職務という観点からは重過失とは言い切れないのではないかと思われます。しかしこれを「お咎めなし」として済ますには、江戸川区も川崎市の事例も、“公立学校”での事故であるという点が問題になるのです。

すなわち、それぞれの損害金である約50万円、約95万円は、最終的に公金での負担となってしまう。市民の税金で賄われてしまうと、納税者に対して説明がつかない、という問題です。
 
一方で、公立高校の教師の給与・報酬は、市民の税金で支払われているという側面があります。ならば、教師個人の給与・報酬による所得からその事故の損失負担をさせるのであれば、結果的に損失埋め合わせに関して税金の支出はなくて済むということになるのです。

恐らく、学校サイドの判断は上記のような考え方を基本として、当該の教師と学校の責任者である校長が、その公的給与で損失負担をするという結論に至ったのではないでしょうか。
 
ただやはり、教師の職責上からは重過失とは言い切れない過失事故の損害負担を個人に負わせることには変わりなく、本当にその決着方法が適切であるか否か、判断は悩ましいところではないでしょうか。
 
では、同様の事故が“民間企業”で起きた場合、その対処は一般的にどうあるのかについて、考えてみます。

>次ページ:民間企業で事故が発生した場合の賠償責任は
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