《スタッフ賞》田中和音(『ジル・ド・レ~吾輩は娼館の蚤である~』音楽)受賞コメント全文
――どのようなプロセスで本作を作曲されましたか?「台本をいただき、既に歌詞がある状態で作曲しました。新作ではありますが、脚本の河田唱子さんと演出の菊地創さんが、よく連携をとりながら作品作りをされたので、僕の立場で苦労した部分はあまり無かったと思います。
コンセプトとしては、Ukiyo Hotel Projectさんは“ダサい音楽はNG”なので(笑)、ダサくならないよう気をつけました。全体的には大人っぽいものを目指しましたが、メロディはなるべくキャッチーになるよう、意識したつもりです」
――特にお気に入りのナンバーは?
「M3“空へ”は、台本の展開と良い塩梅で曲がシンクロできたように思います。M6“天使”も、良いメロディが書けたなと思っています」
――M1終わりなどで登場する(“ウィ、セラヴィ”と歌う)結びが印象的です。
「瓶の外に出たいのに出られない蚤たち。フランス語の歌詞は“それが人生”的な意味です。
皆様もそれぞれの人生に“満足”だったり“不満”だったり“不満だけど受け入れている”だったり、いろいろあると思います。そういった皆様の人生を乗せて、称賛にも嘲笑にも激励にも……それぞれに違って聞こえる“それが人生”にしたいな、と思いながら書きました」
――キャストの歌唱に触発されてメロディを変えた部分などもあったでしょうか?
「今回は本当に歌唱力のある方に集まっていただき、大変幸せな時間でした。メロディ自体を変更した、というのはそこまで無かったように思いますが、例えば、譜面上で8分音符2となっている箇所について、キャストに歌ってみてもらって、同じ長さでなく前の音符をちょっと長く歌うなど、少し崩して歌うほうが良さそうなものは積極的に変えた、といったことはありました。
僕自身、曲をお渡しした後はその曲は歌い手のものだと思っておりますので、本人が表現しやすいように変えていただくのは大歓迎です。と言いつつ、“そこはこだわりなので元通りで”とお願いすることもありますが(笑)」
――田中さんはジャズのご出身ですが、ジャズに通じていることは、ミュージカルの作曲にどんな影響を及ぼしていますか?
「ミュージカルが盛んな地域というのは世界中、いろいろありますが、僕の中ではやっぱりアメリカという意識があります。ジャズというのはまさにアメリカ音楽そのものですから、ミュージカルとは親和性が高いと思います。
また、ジャズは排他的な音楽と思われがちですが、クラシックだったりラテンだったりの良いところをどんどんつまみ食いしてきた音楽なので、他のさまざまな音楽の要素とも相性が良いです。
日本で育った僕が作る音楽には日本的な要素が自然と入るわけですが、ジャズはそういったさまざまな要素を繋ぐ潤滑油的な働きもしてくれるので、ミュージカルの作曲においては非常に役立っております」
――ミュージカルの作曲に興味のある若い方に向けて、何かアドバイスをいただけますか?
「書いて書いて書きまくること!ですが、それよりもとにかく音楽を聴くようにしてください。何かを生み出すためにはとにかく引き出しをいっぱいにすることが大切です。
いろんな作品を観ることももちろん大事ですが、それだけでは聴く量が足りないので、ミュージカルのサントラはもちろん、好きな曲も嫌いな曲も、ジャンル問わず聞きまくるようにしてください」
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