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「一度ゼロになったまち」でなぜ? 東日本大震災の被災地・南相馬市で今、“カフェ”が増えている理由

東日本大震災によって甚大な被害を受けた福島県南相馬市。避難を余儀なくされ、一度は住民がゼロになったまちも。しかし今、南相馬市にはおしゃれな「カフェ」が増えていると言います。取材で見えてきたその理由とは。

筑波 君枝

執筆者:筑波 君枝

ボランティアガイド

今回取材したカフェ「アオスバシ」店内の様子。寿司屋時代の寿司ネタの木札を生かしたおしゃれな雰囲気

今回取材したカフェ「アオスバシ」店内の様子。もともとの寿司屋時代の寿司ネタの木札を生かしたおしゃれな雰囲気

東日本大震災の発生から今年で13年。地震による津波や原発事故によって福島県南相馬市は甚大な被害を受けました。避難を余儀なくされ、一度は住民がゼロになったまちもあります。しかし今、その南相馬市におしゃれな「カフェ」が増えていると言います。実際に取材して見えてきたその理由とは。
 

地震の被害を受けた南相馬市で起こる変化

原町区の北泉海岸。サーファーにも人気でサーフィンの世界大会が開かれたこともあるそう

原町区の北泉海岸。サーファーにも人気でサーフィンの世界大会が開かれたこともあるそう

福島県南相馬市は浜通りに位置し、小高区、原町区、鹿島区の3つの区で構成されています。東日本大震災の際には沿岸部が津波の被害を受けました。さらに、東京電力福島第一原子力発電所の事故の影響で、小高区のすべてと原町区の南側一部が第一原発から半径20km圏内の警戒区域となり全住民が避難。残りの原町区と鹿島区の一部が半径20km以上半径30km圏内の計画的避難区域及び緊急時避難準備区域となったまちです。

当時、約7万1000人だった人口のうち、3万2000人が市外に避難したとのことですが、自主避難をした人がどのくらいかは把握できていないため正確な数字は分かりません。その後、避難指示が解除されたのは、2016年7月です。

その地で今、「カフェ」が増えていると聞くと不思議に思う人もいるかもしれません。実はカフェだけではなく、南相馬市で個性的な起業をする人たちの姿が目立ちます。今回は、2024年3月2日、3日の2日間、南相馬市観光協会が主催するサポーターツアー「南相馬のカフェの魅力に触れるツアー」に参加して出会った移住者の起業の様子をご紹介します。
 

一度ゼロになったまちで、ゼロからの出発

カフェ「アオスバシ」のオーナー、森山貴士さん

カフェ「アオスバシ」のオーナー、森山貴士さん

最初に伺ったのは2023年11月にオープンしたカフェ「アオスバシ」。オーナーの森山貴士さんは、東京でITエンジニアをしていましたが、2014年に原町区に移住し、避難指示が解除された2016年に小高区へ居を移しました。

最初は避難指示が解除されたばかりでお店も何もなかったため、地元の高校生を対象にキッチンカーでコーヒーなどを小高駅近くで移動販売する「Odaka Micro Stand Bar(OMSB)」を開業し、2017年4月に一般社団法人オムスビを創業。カフェ事業をベースに、ITを軸とした地域課題解決で持続可能なまちづくりを目指し、現在もフリーランスのITエンジニアとして働きながらアオスバシを経営しています。

・日本中のおいしいご当地パンが勢ぞろい
イベントの様子

パンは全国から選りすぐりの冷凍パンが集められていた

実際のイベントの様子

イベントスペースでは近隣だけではなく仙台市などからも講師が訪れ、ワークショップやイベントが開かれています

カフェ1階は全国各地のご当地パンを取りそろえたパン屋カフェ。森山さんの知人である世界一のバリスタがセレクトしたコーヒーも楽しめます。

パンは全国から選りすぐりの冷凍パンが集められていました。南相馬市の人口比を考えると、毎日パンを焼いて販売しても収益は期待できません。ならば、「いつでもまちの人たちがおいしいパンを食べられるように」と、全国各地の職人さんが作った冷凍パンを集めて販売しているそう。1階はイベントスペースとしても使われ、この日はシルエットアートのワークショップが開かれていました。

・本格的なコワーキングスペースで、移住体験にも
明るく静かな環境で仕事がはかどりそうなコワーキングスペース

明るく静かな環境で仕事がはかどりそうなコワーキングスペース

2階はデスクワークやリモートワークに最適なコワーキングスペースです。

「移住したいなと思っても、30歳を超えると会社内での地位が確立され、都会を離れるのが難しいという人が多いんです。だったらこっちで同じくらい仕事をできる環境を作ればいいのでは?と考えまして。一般的にはカフェスペースの一角にコワーキングスペースがある所が多いですが、1日中そこで仕事をするような環境とは言いにくい所も少なくありません。しっかりとしたデスクとチェアを置いて仕事に集中できる環境を提供できれば、移住を考えている人もお試し的に過ごせます。難しく考えずに、『アオスバシの機能を使って、一度移住体験をしてみませんか?』という思いで作りました」

森山さんは移住者の参考にと自身で『地方移住を考えているなら!1日1移住のすすめ!』という冊子も作成しています。リスクを取らず、気軽に数日の滞在から試すための心構えや制度が紹介されています。

・一度ゼロになったまちで、ゼロからの出発
アオスバシの入り口前も、どこか寿司屋時代の和の雰囲気を感じます

アオスバシの入り口前も、どこか寿司屋時代の和の雰囲気を感じます

森山さんに小高に移住した思いやアオスバシの目指すところを聞いてみました。

「一度ゼロになってしまったまちだから、ゼロからおもしろいまちができると思ったんです」

実はここはもともと、「江戸前 青葉寿司」という寿司屋でした。その名前をもじって“アオスバシ”です。まちのシンボル的なお店だったので大切にしようと、看板などはあえてそのまま残しています。土間や窓の工事、電気や水道工事など以外は、専門家に相談しながらすべて自分たちでリノベーションし、開店したそうです。

「皆で作ることもテーマの1つ。丸ごと業者に依頼すれば簡単で利便性が上がりますが、幸せ度は上がらないと思うんです。小高区はもともと自治会を中心に住民の皆さんが地域に密着してまちづくりを行なってきました。そこに都会から若い人がやってきて、勝手に新しいことを始めても受け入れてもらうのが難しいですよね。

元からあったものを生かしながら、自分たちの手で新しい場所を作ることで、避難先から戻ってきた地域の人たちも、新しい移住者も参加しやすくなるのではないでしょうか。そんな誰でも参加でき、皆で新しいものを作っていける場にしていけたらと思います」

>次ページ:日本で唯一の“フロンティアなまち”に心惹かれて
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