Q. 「イヤホン難聴になると認知症リスクが上がる」って本当ですか?
いつも音楽を聴いていただけなのに……イヤホン難聴のリスクとは?
Q. 「中学生の頃の通学からずっと、いつもイヤホンをして音楽を聴いていました。今も通勤のときに聴いています。耳に悪いとは思っていましたが、最近、イヤホン難聴になると認知症にもなりやすくなると聞いて、少し不安になっています。実際にそういうことはあるのでしょうか?」
A. 本当です。難聴は認知症の危険因子だと報告されています
イヤホンが原因のものに限らず、難聴が認知症の危険因子になるというのは、残念ながら本当のことです。2017年と2020年、学術誌『Lancet』に、認知症と生活習慣の関連性を調査した多数の研究論文のデータをまとめて総合的に解析した結果が発表されました(The Lancet Commissions 390(10113): 2673-2734, 2017; The Lancet Commissions, 396(10248): 413-446, 2020)。そこでは、以下の12項目が、将来認知症の発症につながる危険因子として挙げられました。- 運動不足
- 喫煙
- 過剰なアルコール摂取
- 大気汚染
- 頭部損傷
- 社会との関わりが少ない暮らし
- 少ない教育しか受けていないこと
- 肥満
- 高血圧
- 糖尿病
- うつ
- 難聴
12番目に「難聴」が挙げられていますね。耳が聞こえにくいだけで認知症になるなんて、と意外に思われる方が多いかもしれません。
この解析結果の中では、各年齢層で特に注意すべきことが示されています。とくに中年期(Mid-life)の生活で影響するものとして挙げられているのが、「難聴」です。12番目に記載されているくらいだから、大した影響ではないと思われるかもしれませんが、実は、難聴が認知症の発症に影響したと考えられるケースは8%にも達しています。この数字は「頭部損傷」の3%、「高血圧」の2%、「過剰なアルコール摂取」の1%、「肥満」の1%を大きく上回るものです。
質問者の方だけでなく、街中や通勤電車でいつもイヤホンをつけて音楽などを聴き続けている人は少なくないでしょう。特に大きな音量の場合、長期的にそのような生活習慣を続けていると、難聴になるリスクが上がります。一時的な聴こえの障害で済めばまだいいのですが、不調が戻らないこともあります。耳の中の「蝸牛」と呼ばれる器官には、小さなたくさんの毛がついた聴細胞というものがあり、その毛が動くことによって、私たちは音を受容することができるのですが、イヤホンなどをつけて大音量で音を聞き続けると、この聴細胞の毛が擦り減ってしまうことがあるのです。さらに、音が聞こえにくくなることで、さらに音量を上げて聞くようになるので、悪循環になります。脳の聴覚系にも悪影響がおよび、聴力が回復しても、脳に後遺症が残り続けるケースもあります。
聴覚系の障害が、なぜ記憶障害などを含む認知症につながるのかという仕組みについては、まだ解明されていません。しかし、最近の動物実験などの結果によると、耳が聞こえなくなるなどの聴覚系の不可逆的な障害がストレスとなり、そのストレスが記憶形成に関わる「海馬」の働きを低下させてしまう可能性が示されています。
音楽を楽しむのは悪いことではありませんが、イヤホン難聴になることで、将来認知症になるリスクが上がってしまうかもしれないのです。もともと、街中や電車内は雑音も大きく、それだけでも聴覚系や脳には大きな負担となります。それらの雑音に負けじと大音量で音楽などを聴き続けるのは絶対によくありません。
また、イヤホンを使わない人でも、たまには耳を休ませることを意識しましょう。一人で部屋にいるときなど、何となくさみしいからと常に音楽やテレビをつけっぱなしにしていませんか? 中には、眠る時も無音だと落ち着かないという人もいるようですが、睡眠中は「耳や脳を休ませる」絶好の機会です。音がない環境に身をおいて、耳や脳をしっかり休ませるようにしましょう。