現実にあるかもしれないから怖い
――完成した映画を見た感想はいかがですか?古川:すごくカオスな世界だと思いました(笑)。撮影しているときは、完成した映画を見て笑ってしまうなんて想像もしていなかったんですが、笑えるシーンもある一方、すごく気持ちが悪い世界でもあって……。どう感情をまとめればいいのか分からないです。
――どういうシーンで笑いましたか?
古川:おばあちゃんがおかしくて。でもコメディーを見て笑うのとは違って、面白くて笑うのではなく、理解も説明もできない恐怖を笑いで誤魔化していたのかもしれません。
――この映画は「何が起こっているのだろう?」と引き込まれるような不気味さがありましたが、古川さんはこの映画の恐怖をどう感じていますか?
古川:自分が理解できない世界がこの世にはあると分かることですね。もともとホラー映画は好きなのですが、それは“何か分からないもの”が存在していることが怖いんです。ホラー映画には、見たくないけど見たくなってしまう中毒性もあると思います。
主人公も理解できない世界に巻き込まれていくけど、でもこの映画で描く異世界は現実にもありうると感じさせるところが余計に怖いと思います。 ――現実にありますか?
古川:映画の家族は、自給自足で生活しているけど、その自給自足は生贄があるから成り立つこと。畜産とか、この映画で描いている世界観に通じることは現実世界にあると思うんです。食物から衣類まで、そういう命の上に成り立っているとも言えるので。
――この映画のテーマ「誰かの不幸の上に、誰かの幸せは成り立っている」はまさにそれを物語っているのかもしれませんね。
下津監督の初の長編映画に出演できて良かった!
――下津監督と組んだ感想を教えてください古川:私は下津監督初の長編映画でお仕事ができて、本当にラッキーだったと思いました。なぜかと言うと、監督はこの映画の演出において、いろいろな実験をされていたからです。
ひとつは、おじいちゃん、おばあちゃん、両親などを演じた俳優さんの中には、演技経験がない方もいて、そういう方を起用したことは大きなチャレンジだったと思います。他にもさまざまなシチュエーションで「こんなこともやってみよう」という挑戦があり、すごく刺激的な撮影現場でした。
――そうだったのですね。
古川:これから下津監督が有名になっていったら、この映画でやっていた実験的なことはできなくなるかもしれない。だからこそ、監督がやりたいことにトライできたこの映画に出演したことは、とても貴重な経験だったと思っています。
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