国語が苦手な小学生を心配している保護者の方へ
光村図書出版株式会社の木塚崇さん(左)と山本智子さん(右)
木塚さんがこのお仕事を選んだ理由は、国語学と不可分の教科書に関心があり、「ことばに触れたかった」から。山本さんは、「もともと国語と本、つまり物語の世界で自由に遊ぶことが好きだった」からだそうです。
そして、今、木塚さんは「教科書作りには、さまざまな制約がある。だからこそおもしろい」と、山本さんは「国語が苦手だと感じる子は、物語に入り込めないのかもしれない。入り込めるような作品に、教科書で出会ってほしい」と語ります。
子どもたちへの思いはあたたかく、教科書作りへの思いは熱い。そんなお二人にアドバイスを伺いました。
※「光村図書出版株式会社」は、以下「光村」と表記します。
※回答は、光村のお二人のコメントをまとめたものです。
小学生保護者の4つのお悩みに教科書の作り手が回答!
【お悩み1】子どもが音読の宿題を嫌がります。【回答1】音読は、相手がいること、目的があることが大切です。
音読を聞いて、感想を言ってあげたり、好きなシーンについて話したりすることで、「ちゃんと聞いている」ということが伝わりますし、子どもの理解も深まります。声かけは、教科書の各単元の終わりについている「学習」の「ふりかえろう」が参考になります。
【お悩み2】授業は作品を読むだけで終了。子どもが内容をあまり理解できていません。
【回答2】先生方にお話を聞くと、時間がなくて、じっくりやりたくてもできないということもあるようです。家で振り返りたいときには、【お悩み1】と同様、各単元の終わりの「学習」を使ってください。読むとき、読んだ後に感想や意見を書いたりするときのヒントにもなります。
【お悩み3】文章を読むのが苦手で、国語も嫌がります。
【回答3】教科書は写真や絵などビジュアルにもこだわっているので、まずはそちらを見てみてください。「子どもに驚いてほしい」と思い、美しかったりハッとしたりするようなものを掲載しています。
国語に興味を持つきっかけは、文章でなくてもかまいません。写真・絵・資料、何でもいいのです。苦手だと感じる子の心に、「これなら読める」「読んでみたい」と少しでも隙間が開くような教科書を目指しています。
【お悩み4】教科書の「この本、読もう」はうちの子には難しすぎるようです。
【回答4】「この本、読もう」は、同じ作者のほかの作品のほか、教材で学んだことを読み深めるための本を紹介しています。「深める」ものだから、読み応えがあると思います。必ずしも全部を読む必要はありません。表紙やタイトルを見て気になるものがあれば、まずは手に取ってみたらどうでしょう。思わぬ素敵な出会いがあるかもしれません。 ちなみに、紹介している本は、自治体がそれぞれの地域でおすすめしている選書リストなどから選んでいます。
タイトルだけを見てピックアップしているわけではなく、全て編集部で目を通し、主題や難易度のほか、学年に適した表現であるかなどをチェックしているんですね。1冊まるごと、責任を持って紹介していますから、ぜひ読んでほしいです。
教科書は世代を超えた共通体験。親子の会話で国語にポジティブな感情を
木塚さんは、国語が苦手な小学生を心配している保護者に対して、「まず、子どものしていることに興味を持ってほしい」と言います。光村図書出版株式会社の木塚崇さん
たとえば、空は『青い』だけではなく、『群青色(ぐんじょういろ)』のこともあります。日常の中でこういった語彙を増やせるのは、保護者だからこそできることだと思います」。
山本さんは、音読した作品、学校で習った作品などの感想を、少しでも書いてみるということを勧めます。
光村図書出版株式会社の山本智子さん
正解はないのですから、何を書いてもいいんです。自分の漠然とした思いや考えが、具体的なことばになること、形になることが大切です。一行だった文が、二・三行となり、そのうち文章となっていく―― 書いたものがたまると『これだけできている』と達成感にも自信にもつながります」。
木塚さんも「最初は、評価を☆で書くだけでも」と教えてくださいました。 自分の生年月日を入力すると、小学生・中学生のころに使っていた教科書の表紙や掲載されている教材名などが表示される、2023年に新しくなった光村の教科書検索システム「教科書クロニクル」。そのコンセプトの一つには、「世代を超えた共通体験」というものがあります。そこには、「くじらぐも」「やまなし」など、世代共通のお話を、家族で話題にしてほしいという願いがこめられています。
愛情や心配から、つい「勉強しなさい」と言ってしまう親は少なくないでしょう。けれども、まずは落ち着いて、子どもを知ることが、苦手克服への第一歩になるのかもしれません。
教科書を媒介に、感想を話し合ったり、親の子どものころの話を聞いたりする、その穏やかな時間が、国語へのポジティブな感情に結びつくはずです。
子どもの音読をきっかけにあのころが蘇る。親子をつなぐ教科書
国語の教科書とその読まれ方というのは、本当におもしろいものです。教科書をもらったその日のうちに、一冊一気に読んでしまう子もいれば、表紙を開くのも嫌な子もいる。授業中にこっそり読んだ作品に惹かれる子もいます。
教科書の作品は「教材」ですから、それをどう扱うかは、先生次第です。基本的な学習目標はありますが、先生が同じでも、クラスが変われば、全く違う味わわれ方をすることも、珍しくはありません。もちろん、「授業での読み」とは別に、自分だけの感動をそっと心にしまっておくこともできます。
自分の意思とは関係なく出会い、いつの間にか離れ、ふと再会することもあります。自分の子どもの音読に、昔は出なかった涙があふれてしまったという親もいます。
そう考えると教科書というのは、身近でありながら、とても不思議な「本」ですよね。
私は、自分が子どものころ、「教科書のお話は通り過ぎていくもの」という感覚がどこかにありました。作品をどれだけ深く読み味わっても、余韻冷めやらぬうちに、授業がどんどん次の作品へと進んでいくからかもしれません。
けれども、それらの作品は、確かに自分の中に入り込み、どこかにそっとしまわれていたのでしょう。それが、教科書クロニクルや子どもの音読などをきっかけに、ふと蘇ってくる。みなさんにも、そんな作品があるのではないでしょうか。
木塚さん、山本さんに、「光村の教科書を一言で表すと?」と聞くと「世の中の本のアンソロジー」と返ってきました。
誰もが必ず、自分の好きな作品に出会えるように―― そう祈るように編まれた教科書です。きっと、親と子を、今の自分と過去の自分を、そして自分と世界とをつないでくれるはず。ぜひもう一度、手にとってみてください。