税金

配当控除を考えている人は注意!2023年分(令和5年分)確定申告から「住民税申告不要」が選べなくなる?

2023年分(令和5年分)確定申告から上場株式等の取引において「所得税と住民税で課税方式を別々に選べた」ものが「所得税と住民税で課税方式が一本化」されています。ここでは配当控除を受ける場合、どのような制度が、どのように変わり、どのような場合に影響がでるのかを整理してみました。

田中 卓也

執筆者:田中 卓也

税金ガイド

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<目次>
確定申告シーズンには、その年に実施されている税制の改正点に注意が必要です。

2022年分(令和4年分)の確定申告と2023年分(令和5年分)確定申告での大きな違いは配当等を受け取っている人の場合、「所得税と住民税で課税方式を別々に選べた」ものが「所得税と住民税で課税方式が一本化された」ことが大きいと考えます。
 
この制度の変更により、どのような影響がでるのかを整理してみましょう。なお、ここでは設例を簡略化するために「上場株式で配当所得を得ている」方の場合で解説していきます。
 

上場株式で配当所得を得ている人は、「確定申告をして配当控除を活用する」もしくは「確定申告をしない(配当控除を利用しない)」が選択肢としてあがってくる

「上場株式で配当所得を得ている」人の場合、検討すべきは「配当控除を活用すべきか?否か?」でしょう。配当控除とは、配当などの配当所得があるときに、一定の方法で計算した金額の税額控除を受けることができるという制度です。もちろん、上場株式等に係る譲渡損失がある場合には、上場株式等に係る譲渡損失と配当所得との損益通算及び繰越控除も選択肢にあがってきますが、ここでは、設例を簡略化するために、上場株式等の売却はなく、配当所得だけがある方、ということで説明をしていきます。

「上場株式で配当所得を得ている」人の場合そもそも「上場株式で配当所得を得ている」時点で所得税15%・住民税5%の源泉徴収をされています。(以降、設例を簡略化するため復興特別所得税の説明は省きます)そのため、「確定申告をしない(確定申告不要)」を選択できます。

「所得税15%・住民税5%の源泉徴収をされたまま確定申告はしない」を選択したほうが有利なのか、それとも「確定申告をして配当控除を活用する」を、判断することになります。

配当控除を活用する場合、課税所得が900万円以下が税金が有利になる判断基準に

そもそも2022年分(令和4年分)の確定申告までは「所得税と住民税で課税方式を別々に選べる」ため、「所得税では配当控除を活用し、住民税では申告不要を選択」することができました。

つまり、以下の図のように課税所得900万円以下であれば、「所得税では配当控除を活用し、住民税では申告不要を選択」すると税の実質負担合計が軽くなることになります。課税所得が900万円以下であることが判断基準ということです。
 
申告不要が選択できる場合に配当控除に有利・不利の判断イメージ (図表:筆者作成)

住民税申告不要が選択できる場合に配当控除に有利・不利の判断イメージ (図表:筆者作成)


上図の判断基準を算式で説明すると、課税所得900万円以下の場合の所得税の負担率は「23%(所得税の税率)―10%(配当控除の減税率)=13%(配当控除を考慮した所得税負担率)」となり、住民税は申告不要を選択するので、5%の源泉徴収税率がそのまま住民税負担率になります。

結果として「13%(配当控除を考慮した所得税負担率)+5%(住民税の源泉徴収税率)=18%」となり、
  • 税の実質負担率合計は……18%<20%(所得税15%・住民税5%の源泉徴収をされたまま確定申告はしない)
という算式が成り立ちます。

つまり課税所得900万円以下であれば、確定申告をしない場合は、税の実質負担率合計は20%ですが、確定申告をして配当控除を活用する場合の税の実質負担率合計は18%ですむということです。
 

所得税と住民税で課税方式が一本化されると、配当控除を活用すれば税金が有利になるという判断基準は、課税所得が695万円以下に引き下がる

これが、2023年分(令和5年分)確定申告から「所得税と住民税で課税方式が一本化」されることになりました。その結果として、配当控除を活用すると有利になるか否かの判断基準は、課税所得900万円以下から課税所得695万円以下に引き下がります。
 
住民税申告不要が選択できない場合、配当控除の判断基準のイメージ図 (図表:筆者作成)

住民税申告不要が選択できない場合、配当控除の判断基準のイメージ図 (図表:筆者作成)


同様に上図で算式で説明すると……

所得税の負担率は20%(所得税の税率)―10%(配当控除の減税率)=10%(配当控除を考慮した所得税負担率)

住民税の負担率は源泉徴収税率とならず、
10%(住民税の税率)―2.8%(配当控除の減税率)=7.2%(配当控除を考慮した住民税負担率)になるので、結果「10%(配当控除を考慮した所得税負担率)+7.2%(配当控除を考慮した住民税負担率)」となり、
  • 税の実質負担率合計は……17.2%<20%(所得税15%・住民税5%の源泉徴収をされたまま確定申告はしない)
という算式が成り立つかからです。つまり課税所得695万円以下であれば、確定申告をして配当控除を活用したほうが、有利ということになります。

ところが、課税所得が900万円以下の場合は、同様に算式をあてはめると税の実質負担率合計が20.2%>20%という算式が成り立ち、所得税・住民税ともに配当控除を活用したとしても、かえって不利になってしまいます。
 
このように2023年「所得税と住民税で課税方式を別々に選べた」ものが「所得税と住民税で課税方式が一本化」されると、配当控除を活用する際の有利、不利の判断基準が課税所得900万円以下から課税所得695万円万円以下に引き下がるのが大きな変更点といえます。
 

配当控除を活用するために確定申告すると国民健康保険が跳ね上がることも?

上記のように「所得税と住民税で課税方式が一本化」されると、たとえば配当控除を活用すると「所得税でも住民税でも配当控除」が強制適用されることとなります。

確定申告を行うとなると、その「合計所得金額」の欄に「配当所得」の金額が算入されることになるので、特に国民健康保険料等を支払っている方についてはそちらの影響も大きいといえます。

というのは多くの市区町村で「合計所得金額」の金額をもとに、国民健康保険料や後期高齢者医療保険料、介護保険料などの算定を行っていますし、税法においても扶養控除や配偶者控除の適用の判定は「合計所得金額」の金額をもとに行っているからです。
 
つまり、確定申告で配当控除を活用した場合の節税額というよりも、国民健康保険税や後期高齢者医療保険料、介護保険料などの増加額が上回ってしまえば、「所得税15%・住民税5%の源泉徴収をされたまま申告不要」のままでいい、という結論になるかもしれません。
 
いずれにしても、2023年分(令和5年分)確定申告からは、よりいろいろな角度からの慎重な判断が望まれることになるでしょう。
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